最後の晩餐図の系譜と聖餅の奇跡

安江 真吏亜

作者によるコメント

西洋において、食がその文化圏の美術の中心となったことは最後の晩餐図とその概念に理由があると筆者は考える。本論文では、キリスト教文化圏の中で描かれてきた最後の晩餐図の系譜を見つめ直し、聖なる食物であるパンの図像の役割について論じていく。本論文ではそれらの中で系譜を追うために代表的なものを主に年代順で取り上げ、その表現を支える思想、儀礼の意味、時には社会的情勢も踏まえながら宗教改革期の頃の表現までを追い、聖体の奇跡の図像の意味を追う。

担当教員によるコメント

入学当初から食文化と美術の関係に興味を持たれていた安江さんは、卒論のテーマに「最後の晩餐」の系譜を選び、各時代における表現の違いを詳細に分析した。本論ではとりわけ東西教会における「聖体拝領」の場面に注目し、聖体(パン)の解釈の違いを残された美術作品から跡づけている。
コロナ禍による文献の入手が困難な中、前半部分では扱いが難しい中世前半期の聖体拝領表現の分析に果敢に挑戦する一方、ルネサンス期までの「最後の晩餐」を扱った後半部分では、美術表現そのものが社会の動きと連動していることを明らかにしており、十分評価に値する。聖体(パン)の象徴主義に時代の思惑が強く反映していることを、安江さん自身の言葉で論じた好感の持てる論考だといえよう。

教授・諸川 春樹