Stratum in the closet

中村 羽菜

作者によるコメント

顔や身体はその人の表層であり流動的なもので、絶対的なアイデンティティではない。
ポートレートにおいて顔の情報が先行せずとも、被写体の本質に迫るポートレートを撮影することができるのではないか、という試みの写真作品。
衣服はその人が生きていた痕跡であり、個性が蓄積された地層である。
被写体が普段から生活している部屋を撮影してその写真を用いたセットを作成し、被写体が実際に着用してきた衣服を地層のように本人に着重ねて撮影した。

担当教員によるコメント

一見してなんだこれは?と驚かされる。まず、モデルが自分が持っている服を、常識では考えられない着方をしている。それだけでも面白いのだが、そのワードローブからなんとなくその人の輪郭が立ち上がってくるのが不思議だ。いわゆるファッションフォトグラフィーのようだが、どこか奇妙な感覚を与えるのは、別撮りした空間をパネルとして背景を作り、それをバックに撮影しているからだろう。モデルの一発芸に見えるようで、非常に手が込んでいるのである。写真史の上では、19世紀以来の民族学的ポートレートやシュルレアリスム的手法にも近い。大量消費社会へのクリティカルな眼差しも垣間見える、オリジナリティあふれる作品である。

教授・港 千尋