卒業制作優秀作品集2022
情報デザイン学科
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家から出られない人がいます。身体が弱かったり、あらゆる事情で、そこから動けない人がいます。それは流行病に関係なく、ずっと存在しています。「思うように移動できなくても、きもちが自由でいられるということ」を思考し、軽やかにとらえるための方法を模索しました。作者自身の経験から、人の深部に迫るノスタルジアに着想を得て、普段当たり前のように扱う肉体と、その内面に巻き起こる感覚を意識し、再対峙するような鑑賞体験を試みます。人の生々しさを残すインスタレーションは、日々心のうちに起こっているはずの語れない感情・言葉にすると消えてしまう感覚を、鑑賞者と言語を超えて共有できるのではないかと考えました。インターネットとともに、交わることのなかった存在と交わることができるようになった現代に生きるわたしたちは、人類の歴史のなかで、もっとも想像力を広げられるときなのではないでしょうか。
担当教員によるコメント
「情報をデザインする」この言葉を聞いた時に、「複雑なものをわかりやすくすること」そう考える人は多いかもしれない。しかし作者は、複雑で割り切れないものを、整理するのではなく、さらに複雑な状態で鑑賞者にアクセスする伝達の実験を行った。この作品は、一見とても静かだ。音がなく何もないように見える。しかし、じっと佇んでみると、何かが刺激され、言葉にできない感覚に包まれる。静かな空間の中で、膨大な情報の受け渡しが巻き起こっているのだ。静寂のインタラクション、情報が飛び交う印や受け取りの合図は何もない。だからこそ鑑賞者は、自分の中にある情報に対して真摯にならざるを得ない。不透明な時代の中で、これだけ自分を明瞭に見つめられる空間が他にあるだろうか。
講師・清水 淳子