アトリエAの絵画,アトリエA

末次 芽衣

作者によるコメント

私は無意識の内に、コミュニケーション能力が人間の能力の中でも最も重要な能力であると認識していたようで、疑ったことも無かった。
コミュニケーション能力を略した「コミュ力」という言葉を日常的に耳にし、その能力が「低い」と評価されることを敏感に恐れていた。
しかし、コロナ渦に入り人との関りが薄れ、コミュニケーション能力を必要に迫られる機会が減った。そんな時、緊急事態宣言の中で孤独を抱える人に向けられたとある学者と教授の話が心に残った。学者は、「世間ではコミュニケーション能力が重要視され、物と向き合うという事の重要性は希薄になっている。それは教育現場でもいえる事で、ディスカッションや人前で発表をするという事が以前に増して重要視されている。一方で、目の前の物がどう出来ているのかを深く観察したり考えたりする時間が減ることに不安を覚える。それを無くして我々は成立しないし、それらの重要性を再確認することで生きやすくなる人もいるだろう」と。また、教授の話は「コロナ渦に入り、孤独に不安を抱える人もいますが、そもそも芸術家は孤独に強くなければいけません」といったものだった。この話から、自分にとってのコミュニケーション能力の価値観が自然と肥大し過ぎていたことに気付かされた。
大学に入学してから、人とのコミュニケーションや社会問題と向き合う作品を作らずに独りよがりの作品を作ることに何処か後ろめたさを感じ、出来る限り避けてきた。しかし、コロナ渦を通して改めて物と向き合い、孤独に淡々と描き続けることで、人とのコミュニケーションから外れた場所に新たな価値観を見出す事を試みた。

担当教員によるコメント

末次さんは、自作について次のコメントを残している。「コロナ禍を通して改めて物と向き合い、孤独に淡々と描き続けることで、人とのコミュニケーションから外れた場所に新たな価値観を見出す事を試みた」わたしは、このコメントを読んだ時、ドゥルーズの「哲学の内側にいながら、哲学の外へ出る」という言葉を思い出した。それは、内側にいながら、内側を超えた外側を生み出すことを意図するが、とても矛盾した言葉にも聞こえる。しかし、私たちは現実にそのような世界を体験し、また喜びを得ることができる。画家熊谷守一が自宅の庭から一歩も外へ出ることなく、小さな庭で起きていることが宇宙になり絵が生まれたように。末次さんの作品のタイトルは「アトリエ」である。そして、作品そのもの、インスタレーション、個々の絵画や物たちは内側に存在している。にもかかわらず、作品は内側とは逆の外を感じさせ、かつ意味が消えた自然を直覚することができるのである。

教授・栗原 一成

  • 作品名
    アトリエAの絵画,アトリエA
  • 作家名
    末次 芽衣
  • 作品情報
    『アトリエAの絵画』
    素材・技法:パネル、油彩、スプレー
    サイズ:H1500×W1500mm

    『アトリエA』
    素材・技法:ミクストメディア
    サイズ:可変
  • 学科・専攻・コース