Flick Braille

武輪 幸之介

作者によるコメント

視力を失った人が利用する「点字」その習得率は国内の視覚障害者の中でもわずか一割ほどである。点字のルールの難しさや指先の感覚の衰えが原因となり、中途失明者にとっては特に習得が難しいと言われている。推敲や読解に適した読むという行為の持つ有効性と重要性は、ITなどの技術が発達し、点字を習得していなくとも生活することが可能である今も色あせることはない。人生の半ばで読むという行為が困難になり、「聞くこと」と「読むこと」のギャップに苦しむ人への一つの選択肢として、ルールの理解、形状把握の容易さに重点を置いた、スマートフォン利用者に浸透しつつある「フリック入力」のルールを応用した新たな点字を提案した。

担当教員によるコメント

スマホアプリの更新一つとっても、せっかく覚えた操作をやめ、新しい操作に慣れていくまでには、戸惑いと諦めのような感覚が多少なりとも伴うものだ。まして長年当たり前だった「見る」という方法が効かなくなったとき、人が新しい方法を一から覚え、それが日常になっていくまでには想像以上のパワーを要するだろう。中途失明者を対象としたこのデザインは、「慣れ親しんだ操作の記憶」を頼りに新しい世界への移行をサポートするチャレンジである。状況の変わり目と順応に伴う困難さに着目し、デザインの検証とともに長期に渡る関係者への取材をとおして点字触読習得に関する根本的な社会課題のありかを見極めた秀逸な卒業研究である。どんなに大きな壁が見えても、デザインは怯まないのだ。

教授・大橋 由三子

  • 作品名
    Flick Braille
  • 作家名
    武輪 幸之介
  • 作品情報
    技法・素材:UVプリント(カラーインク、グロスインク)
    作品形態:コミュニケーションツール
    サイズ:約H0.3×W10×D10mm
  • 学科・専攻・コース