光景のまたたき

小野坂 葉子

作者によるコメント

今この瞬間見ているものは絶えず変化し、刻一刻と過去になっていく。
あらゆるものの細胞や分子は絶え間なく動いているため、全く同じ場面は二度と無い。私達は常に更新される光景の只中に生きているのだ。
自分の目で、今見ていることがただ一つのかけがえのない体験だと気付いた時、光景がまたたき始める。

担当教員によるコメント

小野坂葉子は、祖母の告別式の帰り道、日差しのあたる自分の手をぼんやりと見た。今見ているものは、いつか思い出す過去ではなく、今、過去になっていると気づき“ものの分子は絶え間なく動いている”と初めて教えられた時の驚きを思い出していた。生きていることの尊さを得心し未知のものへ目を見張り、この世界の美しさを捉えたいと突き動かされたのかもしれない。絶えず動いている光景を動いているままに表現したいと、飽くことなく実験を繰り返し制作に没頭した。思い描くイメージをかたちにしようと既存の方法にとらわれず工夫を重ね、多様なテキスタイル技法を融合し表現することに成功した。つくることへのひたむきさと冷静な観察眼で次はどのように作品を展開するのか期待している。

教授・川井 由夏