記憶の迷宮

瀬崎 杏里紗

作者によるコメント

遺跡を巡る旅が好きで、私の頭にはかつて訪ねた場所が詰まった保管庫がある。私は時々記憶が複雑に絡みあう、この迷宮を彷徨い歩く。テキスタイルを学ぶなかで、特に型染めに強く惹かれ、卒業制作で取り組んだ。型を展開していく方法をとることで生じる模様を、どれだけ魅力的なものにできるか研究し制作。記憶という複雑で曖昧なものを題材とし、技法とかけ合わせることで、幻想的で混沌とした世界を表現した。

担当教員によるコメント

この作品は日本の伝統的な染色技法である、型染によるリピート作品である。が、約50cm四方の1枚の型紙を、反転させながら緻密に転回・反復さている意欲作である。1枚の型紙を反転しながらズレなく模様を合わせていくのは、相当な集中力と根気が必要であり、綿密な計算と試作を重ねなければできない手業である。従来、型染は一方方向に平行移動しリピートしていくものであったが、この工夫によって生まれる無限の連続性によって、二次元であるはずの1枚の布に空間性が現れ、無限の奥行きを感じさせることに成功してる。遺跡をモチーフとした細やかなデザインと、目を凝らすと見えてくるユーモアさが合わさることで、彼女の迷宮が奥へ奥へと広がり、力みなぎる小宇宙が生まれた。

講師・山田 菜々子