お家に宿るエンパシー

タン キャリー イン トン

作者によるコメント

バシュラールの「空間の詩学」によると、人が想像する家の構造には詩的な意味があり、思い浮かべた家はその人の無意識の構造に類似している。家の中を歩き家具を触わると、懐かしいと同時に掴みどころがない空間のようにも感じる。母が言っていた「体は魂の神殿だ」という言葉は、まさにこの感覚と近いかもしれない。家という空間の中に居れば居るほど、住人としての自覚を身につける。そして、私の存在の輪郭線がよりに明白になる。

担当教員によるコメント

タン キャリー イン トンは、留学生活の様々なできごとを分析し、女性・外国人・自身と身体・思考の発露を軸に「私」を表現した。布が生きているかのように動き出すと臍が現れる。臍は自力で呼吸できる証、母体と繋がっていた跡であり、自律した「人間」として生きる彼女を象徴している。自分のお腹のイブとビーナスのタトゥーをクロスステッチで描写し、プラナカンビーズ刺繍で日本語の挨拶を、綿を紡ぎシンガポールのモップを、手織りのマットに英語で詩を綴った。丹念な手仕事に徹したメタフォリカルな表現には、テキスタイルが内包する強さと優しさへの敬意、フェミニンな弱いものと決めつける偏見に抗する考えが込められている。生きていくために大切なものが、家庭の謙虚な日常にあることを知らせている。

教授・川井 由夏

  • 作品名
    お家に宿るエンパシー
  • 作家名
    タン キャリー イン トン
  • 作品情報
    素材:ウール、線、刺繊糸、ピーズ、紙バルプ、キウィ枝の染料、木材、発泡スチロール、メカニックパーツ、ステンレスパーツ、アクリル板、プラスチック、粘土
    技法:織、草木染め、刺繍、ピーディング、縮械加工、パピエ・マシェ、手紡ぎ、プログラミング、彫刻
    サイズ:H2000×W3000×D2200mm(6点)
  • 学科・専攻・コース