アンタだれ?

宇佐美 妃湖

作者によるコメント

本作は恋人からの「結婚しよう」「母親のことを哀れだと思う」という発言によって、私が否定的である母親像と将来の自身が重なったことをきっかけに、母の虐待行為が私にどういった影響を与え何が受け継がれたかのか“自分自身”に着目し制作を行なった。中央に設置された単管とビニールシートはバリケードの役割を果たしており、鑑賞者は奥に入ることはできない。又、点在している岩は左右非対称に造られる日本庭園から用いており、それは私が語る家族像が今もなお家父長制度が根底に残っている日本の地方の家族について語っているためである。パフォーマンスではトラックシートにリアルタイムで映し出された自身の顔を見つめ、頭の中で「お前は誰だ?」と問うことによって、自身の顔を自身だと認識できない分離した状態となり、全く理解のできない何者かとして認識する。

担当教員によるコメント

宇佐美さんは、一貫して母と娘の間に生じる関係性の悲劇をテーマとしてきた。それは、実母からの虐待行為が発端となるにせよ、この卒制では、結婚を申し込まれた本人が、近い将来に母となり、虐待を行う側になるかもしれないという自身への恐れを問題とする極めて広い視野において制作されている。日本の歴史的な家父長制を暗示する日本庭園の岩を配置した空間に、現在の日本の女性がおかれた閉塞感が見事に表出されている極めて優れた作品である。パフォーマンスを行う本人がカメラに向かい、自身に対して「おまえは誰だ?」と問う事によって命名不可能となった母娘が不気味な存在として召喚されるのである。我々は誰か!希有で真摯な作家である。

教授・中村 一美