やさしくなりたい

白川 真吏

作者によるコメント

2019年に「彼女」の肉体の一部を制作しました。正確にいうと、装着した人間が美少女キャラクターになれるマスク(※1)を制作しました。私の作品に「美少女キャラクター」として登場させるためでした。「彼女」なんて呼んでいるけど、これは名前ではありません。名前がないまま適当に『彼女』とか『あの子』などと呼んでいたら、周りを含めて彼女のことを「彼女」と呼ぶようになりました。私は当初、「彼女」を一個人ではなく、ただのキャラクターを表象するモチーフとして作品に登場させていました。しかし、「彼女」を起用した作品が増え、作品を通して彼女のパーソナルな部分が描写されていくと、彼女はただの記号的なモチーフではなく、「彼女」という一人の人格(キャラクター)になっていくように感じました。私は困惑しました。「彼女」が単なる美少女キャラクターの表象でいてくれた方が、作品内で扱い易いからです。そして何よりも、「彼女」を一個人として認識したことによって、彼女を使って作品を制作することに、強い罪悪感を感じるようになったのです。それから私は、自身の暴力性と向き合うため、そして彼女をはじめとするキャラクターたちの尊厳について考えるため、「彼女」を起用した作品を制作するようになりました。「彼女」を創り出してしまったことに対して向き合い、非対称である関係性を認めながら、彼女とどのような関係を築くことができるのか、作品を通して模索します。※1彼女の肉体は、「美少女着ぐるみ」で用いられる装備を使用している。美少女着ぐるみ…キャラクターを模したマスクと「肌タイツ」と呼ばれるキャラクターの肌を模した全身タイツを着用し、キャラクターになりきるコスプレの一種。

担当教員によるコメント

白川さんは一貫して創作されたキャラクターの実存を考え、検証する事をモチーフに作品を作ってきた。キャラクターという存在がどのように存在しているかを丁寧に検証して、彼女(彼)の権利についても考える。驚くほど誠実に根気よく考える。
このテーマは、ポストヒューマン論とかオブジェクト指向論とか、現代の新しい思想に直結するアイデアでもあり、同時にもっとも根源的な泥臭い愛情のあり方でもあると思う。今後、白川さんの作品は現代の色々な事象や諸問題とぶつかって誰も見た事がないようなスゴイものに変化していくと思う。例えばAIとか宇宙人とかを前に、"人類"としての感性を表明する事がアーティストの役割なのだ、と白川さんの作品から思った。

准教授・千葉 正也

  • 作品名
    やさしくなりたい
  • 作家名
    白川 真吏
  • 作品情報
    素材・技法:ビデオインスタレーション
    サイズ:可変
  • 学科・専攻・コース