あなたはモグラから鳥になる

黒宮 希星

作者によるコメント

冬から春へ季節が変わる。草木の張り詰めていた空気が動き出す。新しい芽は地面を縫うようにどんどん増殖し、気配を強めていく。人間だった頃を忘れ、私はモグラになる。根をかき分けて進む。窓から光が差し、私は鳥になった。今は草原の上を飛び回っている。私は植物の気配を卒業制作のテーマに掲げた。植物は目に見えている以上に私たちを侵食している。私たちはいつか植物の強い気配に抗えずに、忘れ去られる存在になるかもしれない。

担当教員によるコメント

黒宮の卒業制作は一部屋を使ったインスタレーションだ。そこに半透明のユポ紙やほぼ透明な紗が吊り下げられ、表裏を往復しながら草の意匠が縫われている。縫うことや裏が透けることで植物が地表と地中の境界をつなぐ存在であることを思い起こさせる。糸により画面がゆがみ、元の平面から多様な表情が生まれ、また水平面を垂直面に変換したことでダイナミックな空間を獲得している。
作品を見るうえで注目すべき点は、吊り下げられた作品の表裏を絵画のようにはっきりさせず、構造を曖昧にしていることだ。その両面性は、善悪や精神と肉体といった二元論の解釈にほかの道筋を与え、普段見過ごしてきた物事を他の側面から考えさせることへの可能性を感じさせる。

教授・菊地 武彦

  • 作品名
    あなたはモグラから鳥になる
  • 作家名
    黒宮 希星
  • 作品情報
    素材・技法:ミクストメディア
    サイズ:可変
  • 学科・専攻・コース