おじいちゃんへ

青山 由佳

作者によるコメント

お見舞いのために彼の病室を訪ねたとき、横になっている祖父に対して私は何をしたら良いのか分からず、ただそばに立っているだけだった。記憶に残っているのは最後にお見舞いに行ったときで、祖父はまだ話ができる状態だった。 あのとき祖父と何らかのかたちで対話できたら良かったのにと思った。そしてハンドクリームを作ろう、そう思った。話をすることは難しく感じることが多いけれど、言葉が無くてもコミュニケーションは取れる。だから彼の手にハンドクリームを塗ってあげて、手と手で交わすコミュニケーションを取ろうと思う。彼はもういないのでその願いは叶うことはないし、ただの自己満足だけど私は祖父にそれをプレゼントしようと思う。 祖父は生前に自宅の畑で私の大好きなトマトをたくさん作ってくれた。ハンドクリームはトマトの種から採り出した精油から作られている。ラグに書かれた線の内側に使われている毛糸は祖父がよく食べていたみかんの皮で染めた。

担当教員によるコメント

1年次から常に自分自身の表現を探し求め、向きあってきた青山さん。そこにはいつも強く張りつめた緊張感があった。「表現する」とは、作者の偽りないリアリティからこそ、生みだされることは承知だが、時に、もう少し力を抜いて!と声をかけたくなってしまうほどの制作への向きあいであった。もちろん、これは表現者として、とても正しい。卒業制作「おじいちゃんへ」は、祖父の死を前に自分自身が取ってしまった行動を思い、実際には祖父にできなかったことを試みる作品である。これほどまでに個人的な出来事、感情から、なんと普遍的な、人が誰しもかかえる思いに揺さぶりかける表現を生みだしてしまうとは!これは青山さんの真摯な思いが、途方もない営みとなり、その営みがそのまま制作過程となり、作品、表現となってしまったからこそである。ただただ深く感動する。

教授・日高 理恵子

  • 作品名
    おじいちゃんへ
  • 作家名
    青山 由佳
  • 作品情報
    素材・技法:約150個分のトマトの種から採取した精油、約200個分のみかんの皮の煮汁、蜜蝋、椿油、焼きミョウバン、酒石酸、ウール毛糸、布、木材
    サイズ:可変
  • 学科・専攻・コース