Disintegrating/Grandfather, Drifting in a gravitational field

竹内 美樹

作者によるコメント

「Disintegrating/Grandfather」は、祖父を描いた。認知症の祖父と対話した時、祖父の目に映る私は何者でもない存在である事に気付いた。同じく私の目に映る祖父も私の知らない存在で、老人でもあり、幼い子供でもあった。祖父という枠が一度崩れて、彼が生きてきた記憶や時間の中を彼自身が自由に動き回っているように思えた。そして時折どこかで焦点を結ぶように立ち現れる存在があり、私と祖父の間で発生した存在、現象に対して興味を持った。 「Drifting in a gravitational field」は、海で流されかけた体験を元にしている。物事を出来事として認識したとき、その場に渦のような中心が生まれ始めた。出来事の基点となる私の位置は曖昧だが、私や、私を取り巻く海も、中心に向かう地球の引力に支えられていた。中心から周縁を思い、私は表層に居ながら下層を見ていて、上と下、内と外も定かでなくなる。規模はどこまでも大きく・小さくなる。だが描きながら、それらは全て同時に存在し得るように感じていた。

担当教員によるコメント

最も身近な存在、ずっとその人はその人であり続けると思っていた。しかしその人は別の存在として「今」ここにいる。その人は記憶の渦の中にいて、時間軸を自在に行き来する。あの時のその人に会うためにすべてを受け入れる。しかし思いの他「今」が邪魔をするのだ。老いる家族の近しさと遠さをテーマに、美しい陽炎の中にその人を描いた。また、自らが海で流されかけた体験をもとに描かれた作品からは、絵画にしか出来ない視点と意味の多層化、あるいは反転するスケールを用い、「描くこと」によって追体験と再構築を繰り返しながら、世界と自らの存在の関係性を探し続ける。その真摯な姿勢の一方で、竹内の伸びやかなストロークと明るい色彩が、絵画を描く喜びとして素直に伝わってくるのである。

教授・小泉 俊己

  • 作品名
    Disintegrating/Grandfather, Drifting in a gravitational field
  • 作家名
    竹内 美樹
  • 作品情報
    『Disintegrating/Grandfather』
    素材・技法:キャンバス、油彩
    サイズ:H1620×W1620mm

    『Drifting in a gravitational field』
    素材・技法:キャンバス、油彩
    サイズ:H2590×W1940mm
  • 学科・専攻・コース