境界

中尾 璃吏

作者によるコメント

思考を巡らす際に私は、水面と、そこに映り込む自分自身の情景がぼうっと頭に浮かぶ。それは好ましいようで、でも何処か不安になるのだ。
3年次で制作した黒御影石の表面を波に見立てた作品を見たとき、その石の美しさの中にあの情景をみたような気がした。それから私は水面の表現を追い続けている。卒業制作はその1つの区切りになったように思う。
この作品では、自分の内の空間にある水面を別の空間に置くことで、外の世界との接続を試みた。鑑賞者が作品に映り込む自身を見たとき、それを見て何かを感じたとき、この試みは成功だといえるのだろう。

担当教員によるコメント

床に寝かされた波打つ黒御影石は、光を拡散させながら静かに揺れている。息を潜めて長い間見つめていると、ある時、その揺れは自分自身の呼吸や、バランスを取ろうとする身体からくるのだと気が付く。更に感覚に身を委ねてそれを見つめていると、意識は精神と身体の揺れの時差の隙間に落ちてゆく。これは、そこに揺らぐ自己と対峙するための不動の水面なのだ。3年次に気づきを得た作者の欲したその水面はもしかしたら姿見の様なもので、垂直に立てるのが正しいのかもしれない。水面を垂直に立ち上げ、見る者がこの彫刻と向き合う時、作者の意図する本来の何かが見えてくるはずだ。作者は石を触る手の感覚に常に誠実であろうとした。内省的で静かな秀作である。

講師・中谷 ミチコ