現代を生きる鎧

石山 遥香

作者によるコメント

心身共に女性の身体が変化するにつれて、女性という理由で、有益を得たり、攻撃をされる瞬間が多くなった。
時には、女性という理由で守られ、時には女性という理由で攻撃をされる。
女性だからと差別を受ける現代社会の中で、攻撃をされながらも、時に「女性」という武器を使って自身を守る姿
戦で攻撃、脅威から守るために身につける鎧
この2つに共通するものを感じた。
そのため、鎧の素材として、戦に利用されてきた「鉄」で
成熟した女性をイメージさせるブラジャーを制作した。
ブラジャーの数は、自身が初めてブラジャーをつけた歳から今日までの歳までを数にした。
ジェンダーの差別が残る現代社会に、磨耗されながらも日常生活を送っていることを表現するために、
成熟した女性に必要不可欠なブラジャーを、鉄で作った、現代の鎧を制作した。

担当教員によるコメント

作者は3年次から連続して自らが身につけてきた着古された衣類をモチーフに、鉄の彫刻を制作してきた。靴、ジャケット、スカート、帽子…。それらの縫い目を解きほぐして解析し、テキスタイルのパターンを鉄に当てはめることから制作は開始される。テキスタイルとは違い、鉄の板は、焼かれ、切断され、叩かれ、溶かされ、形になる。皺や、縫い目が精密に描写されながらも、鉄の板は歪みや、抵抗の痕跡を内在させる。それらは作者の生きづらさを表象しているようだ。作者は自身の存在の痕跡を解体し、もう一度組み合わせ繋ぎ止めながら、翻って自己を証明しようとしているのだ。鉄を相手にした粘り強い実験と発見の中で生み出された形は、『私』と、『私以外の全て』の間に存在する愛すべき表皮なのだ。

講師・中谷 ミチコ