TAMABI NEWS 101号(電脳世界の仕掛け人)|多摩美術大学
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テクノロジーで表現を拡張する電脳世界の仕掛け人誰もが悩みを抱える現実社会“妄想”の力が気持ちを軽くしてくれる2023年に鳥取県で開催された「妄想宇宙in米子」。会場内をARのオブジェクトが浮遊する左から:宮内理(08年大学院油画修了)、井上樹里(08年大学院油画修了)、道源綾香(08年大学院油画修了)(※)多摩美卒業生のキャリア形成を目的とした、若いアーティストのための展示スペース。現在は活動を終了し、その役目は外苑前のオルタナティブ・スペース「Up&Coming」に引き継がれている。埼玉県川口市で開催されたワークショップ。パブリックな空間で誰もがアートに触れられる体験を提供もうそうこうえん宮内理、井上樹里、道源綾香によるアートユニット。「目の前の現実を変える妄想の世界を大切に、人々と想像する自由を分かち合う」ことをテーマに、オリジナルARのデザイン・制作のほか、展覧会、イベント、ワークショップなどを開催している。アキバタマビ21で開催された展覧会の様子。ARだけでなく、リアルな会場にも妄想公園の世界を展開させることに力を入れていた上のQRコードからは妄想公園のサイト、下のQRコードからはアキバタマビ21の展覧会でARが出現している動画を見ることができる。展覧会では、郵便ポストやベンチ、ブランコなどをモチーフにした立体作品が現実の空間内に配置され、スマートフォンのカメラをかざすとARキャラクターと一緒に遊ぶ妄想のような世界を体感することができた道源 私たちは多摩美の修士課程で油画を学んだ同級生です。ユニットを結成したのは、メンバーが30代後半のころ。当時は、人として、女性として、人生の分岐点となる出来事がそれぞれに起こっていました。現実社会では、誰もが自分だけの辛さや苦しさを抱えています。そんなとき、独りよがりな妄想でさえも、別の世界にワープしたかのように気持ちを軽くしてくれることがある。特にアートはそういう存在だよねと話しながら、「妄想公園」というユニット名を考えました。宮内 大事にしたかったテーマは、人と人とのコミュニケーションを生む作品をつくるということでした。しかし、世界がコロナ禍に突入。制作の根本となる「人と人との接触」が難しくなり、一時は途方に暮れました。そんななかで辿り着いたのが、ファインアートとデジタル技術を融合させた作品です。井上 私たちが採用しているAR(拡張現実)技術は、目に見える現実世界とデジタル上の非現実世界を端末上でひとつの空間に出現させることができます。デジタルに関しては知識のなかった私たちですが、ファインアートを続けてきたからこそ現実と非現実を結びつけた表現ができると考え挑戦を決意しました。道源 こうした取り組みの起点となったのは、「アキバタマビ21」(※)での展覧会でした。制作のテーマは、すべての人が休んだり遊んだりできる公園。遊具を模した立体のオブジェは非現実的ではありますが、いずれも街中にある身近なものがモチーフです。宮内 年代や性別、身体の個性を問わず誰もが楽しめることを重視し、車椅子のままで遊べる作品も制作しました。また、展示にユニバーサルデザインの観点を取り入れ、より多くの人に見やすい配色や配置を考えました。井上 デジタル面では、自分たちでデザインしたキャラクターのARが端末上に出現し、会場内を動く様子を見ることができます。道源 現在の活動の根底には、多摩美で過ごした自由な学びの時間があると感じています。印象に残っているのは、油絵だけではなく、もうひとつの軸を持ちなさいという先生の言葉。現在も新しい分野に挑戦しているなかで、私にとって心の支えになっています。宮内 ひとつのテーマを追究する機会に恵まれたことも力になりました。自主的に動けば必ず得るものがある、魅力的な環境でした。井上 妄想公園は、今後もアナログとデジタルを掛け合わせて人々に寄り添った活動を続けていきます。それと並行し、自分たちの心に寄り添うことも大切にしたいと思っています。プライベートと表現を両立させることが、事情を抱えながらもアートに触れたいと考える方々の力になることを願っています。 アートユニット 目の前の現実を変える妄想の世界を大切に人々と想像する自由を分かち合う手仕事×AR妄想公園mosokoen

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