05VR作品づくりの根底にあるのは「体験を生み出したい」という欲望右:第80回べネチア国際映画祭 Venice Immersive ノミネートだけでなく、2023年のルミエール・ジャパン・アワードVR部門でグランプリを受賞した『Sen』、左上:黒楽茶碗『万代屋黒』を再現した『Sen』のデバイス、左下:『Sen』をプレイする様子10年グラフィックデザイン卒業VRアニメーション『Feather』。バレエダンサーを目指す少女に羽を渡して励ますインタラクションが用意されているVRアニメーション『Beat』。2020年Venice ImmersiveノミネートVR演劇『Typeman』。2022年Venice Immersiveノミネートいとう・けいすけ2010年、多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒業。メーカー勤務を経て、2012年よりフリーランス3DCGアーティストとして活動を開始。VR/3DCGアニメーションのほかキャラクター、グラフィックデザイン、イラストレーション等の制作も行う。 VR(仮想現実)技術を駆使したアニメーションを制作しています。僕がVRに魅力を感じているのは、仮想ではありながらも体験者が空間に入り、行動を起こし、それに対してアクションが返ってくるところ。相互作用を伴ったコミュニケーションこそが、単に映像を観る体験とは大きく異なる点だと思います。 その一例が、多くの賞をいただいた『Sen』という作品です。日本の伝統文化である茶道をテーマにしたもので、体験者が茶室でVRゴーグルを着け、黒楽茶碗『万代屋黒』を再現したデバイスを両手で持つと、目の前の仮想空間でお茶の精霊たちの物語が繰り広げられます。実は、この精霊たちは体験者の心臓の鼓動に反応して生成されているんです。楽茶碗に搭載された心臓ハプティクスにより、まるで自分の心臓を手に持っているかのような不思議な体験と、身体の動きに応じてアニメーションが変化する体験。さらに、伝統的なお茶の文化を組み合わせたいと着想した作品でした。 VR作品をつくる上で難しいのは、体験者の視線を誘導するための“仕掛け”です。あからさまに誘導すればファンタジーの世界が台無しになってしまいますが、自由に動かれすぎてしまうとストーリーが伝わらなくなってしまう。特に僕の場合は言葉を一切使わない作品が多いため、自然に誘導するような工夫をちりばめています。その点、人の目の動きを誘導する、無意識に訴えかけるようにするなど、多摩美で学んだグラフィックデザインの知識がVR作品にも反映されています。 大学卒業後はメーカーでグラフィックデザイナーとして仕事をしていました。しかし、アニメーション作家になる夢をあきらめきれず、改めてCGを学ぼうと決心。学生時代から「作家になれ」と言ってくださっていた恩師・片山雅博先生が亡くなられたことも、自分の道を見つめ直すきっかけになりました。 アニメーションをつくったのは、かわいいキャラクターを動かしたいという思いがあったからです。しかし、一般的なアニメーションに対しては、窓の外から彼らの世界を覗いているような隔たりを子どものころから感じていました。自分もアニメーションの世界に入り込んで、キャラクターと触れ合いたい。そんな願いを実現してくれるVR技術が登場し、自分の理想に時代が追いついてきたような感覚でした。 僕が創作を続ける理由は、「体験を生み出したい」ということに集約されます。そして、常に新しい技術を活用したいと思っています。アイデアを作品に落とし込むために、引き出しを増やしておく。それによって初めて、誰も体験したことのない世界をつくり出すことができるのだと考えています。 XRアーティスト インタラクティブなVR作品でベネチア国際映画祭XR部門に5年連続ノミネート伊東ケイスケ ITOH Keisuke
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