TAMABI NEWS 102号(世界で輝く力)|多摩美術大学
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左:セイコーウオッチ株式会社『ISSEY MIYAKE ELLIPSE』、中:HAY『 MIZ WATER BOTTLE』(Image courtesy of HAY)、右:Molteni&C『CINAMMON』(Photo:井上昌明 Masaaki Inoue)※毎年イタリア、ミラノで開催されるミラノサローネ国際家具見本市ふかさわ・なおと多摩美術大学卒業後、セイコーエプソン入社。先行開発のデザインを担当。1989年に渡米し、ID Two(現 IDEO)入社。シリコンバレーの産業を中心としたデザインの仕事に従事した後2003年、NAOTO FUKASAWA DESIGNを設立。世界を代表するブランドや国内のリーディングカンパニーのデザインを手がける。フィラデルフィア美術館での個展私は、デジタル部門に配属され、今までにない製品群のデザインを任されました。なかでもテレビウオッチ(テレビ付き腕時計)など、まだこの世にない製品をビジュアル化する腕を買われ、次第に社長直下で仕事を請け負うようになります。まだインターフェースデザインなんて言葉がなかった時代に、自力でこの分野を開拓していたわけです。 約8年勤務して、30歳になった頃、海外のデザインに憧れる気持ちが強くなっていきます。デザイン雑誌を見るとおしゃれなオフィスで働くデザイナーが紹介されている……。それは会社のライフプラン研修で示される未来像とは、ずいぶん違って見えました。もっと自由な環境でデザインをしてみたい──。そこで、思いきって、アメリカ西海岸のデザイン会社に移籍することにしました。 私が渡米した1989年は、Appleなど新興のIT企業が頭角を現した時期で、とにかく面白かった。ここで、コンピュータのインターフェースやデジタル機器、医療機器など、さまざまなデザインプロジェクトに携わりました。また、このときの同僚のひとりが認知心理学者で、彼女との議論を通じて、人間工学的なデザインのアプローチについても学ぶことができました。 アメリカ生活が7年を過ぎた頃、ふと自分のキャリアについて考えました。サンフランシスコの生活は実に快適です。気候もいい、デザイン」といった枠組みに違和感を抱いてきました。椅子のデザインと携帯電話のインターフェースデザインは、まったく異なるように見えて、実際には、「混沌から秩序をすくい上げる」という同じ課題と向き合っているのです。こうした考えから、統合デザイン学科の構想に賛同し、その延長線上に、大学院をつくりたいとずっと考えてきました。そして、学内関係者の理解を得て、ついに実現するのが2026年4月に開設される大学院統合デザイン専攻(SID)です。 目指すのは、カテゴリー化されたデザイン食材も豊富、街並みも美しい。ただ、すべてが整っていて、この街にデザインは必要ないと思ったのです。私は日本に帰国することを決め、その前にヨーロッパの巨匠たちに会いたいと考えました。するとIDEO社の創業者が、エットレ・ソットサス、ミケーレ・デ・ルッキといった憧れのデザイナーたちを紹介してくれたのです。1980年代の伝説的マエストロたちと直に会って話せたことは、貴重な学びであり、大きな自信になりました。 帰国後、ヨーロッパのデザイン業界からも声がかかるようになります。デザイン雑誌の特集をきっかけにして、ミラノサローネ(※)で注目され、30社以上から依頼を受けました。イタリア、ドイツ、フランス、スペインなど、ヨーロッパ各国のブランドと仕事をするなかで、「Power of Simplicity」を追究する独自のスタイルが確立されていきました。シンプルながら心地よく生活に馴染む。シリコンバレーで学んだデジタルの先進的なデザインとヨーロッパの伝統工芸の技が融合したアプローチがここに結実したのです。 同時に、「Without Thought(思わず)」という概念を提唱し、人間の無意識の行動に宿るデザインのきっかけを模索しました。当時手がけた「無印良品」の壁掛式CDプレーヤー、「au/KDDI」のINFOBARなどは、この考え方から生まれたものです。 私がデザインにおいて大切にしているの領域を統合することではありません。ビジネス、サイエンス、テクノロジーなど、他分野と融合しながらデザインの可能性を拡張し、社会に向けて新たな価値を具現化できる人材を育てることです。 社会人になってからデザインに興味を持つ人も多いでしょう。統合デザイン専攻の使命は、美大卒業生に限らず、さまざまなキャリアを持つ人たちが集まり、互いに学び合う「場」を提供することです。ここから世界で通用するデザイン人材を輩出していきたいと考えています。は、「混沌とした世界から秩序をすくい上げること」です。突然の夕焼け、渡り鳥の大群など、自然界の偶然の秩序に着目し、それをデザインに取り入れる視点を持つことが重要です。それは日常の中の「当たり前」に気づき、デザインに落とし込むスキルともいえます。その状態における最適な秩序を形にする──。それが世界各国のブランドと仕事をしてきた私が考える「デザイン」なのです。09

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