03いで・やしま1982年長野県安曇野市生まれ。多摩美術大学環境デザイン学科卒業。株式会社SIMPLICITYのプロダクトデザイナーを経て、2016年より独立。2019年から長野県松本市を拠点に活動。伝統工藝をベースとしたブランディングや、全国の職工・作家と協働しプロダクト開発を手掛ける。左上:茶筒に茶葉をすくう機能を加えた『波茶筒櫻井』(©開化堂/櫻井焙茶研究所)、右上:卒業製作がもとなった磁器シリーズ『snow plate』有田焼左下:木材を「へぐ」という技術でつくられた『剝木板皿』、下中:千利休の作と伝わる国宝茶室[待庵]の旧屋根材を使用した『茶香筒』、右下:『KITTACHI MUG』有田・伊万里焼(©Analogue LIfe)ナーとしてのキャリアをスタート。約10年間在籍し、デザインの手法やトーンを学ぶとともに、全国の工房や職人と多様なプロダクト開発に携わりました。現場に足を運び、素材や技術を理解し、対話を重ねながら形にしていく姿勢は、この時期に培われたものです。 同じく多摩美出身のグラフィックデザイナーである妻と共に「YANOBI」を立ち上げ、2016年に独立しました。それぞれが個別のプロジェクトを持ち、ブランドのコンセプトやグラフィック、オリジナルプロダクトまで共同で手掛けることもあります。プロダクト制作の依頼を受ける際は、素材からイメージを広げ、クライアントの要望に応えた複数のコンセプト案を用意します。制作を依頼する工房には必ず足を運び、素材の特性や技術の背景を把握します。職人の思考を理解し、対話を積み重ねることで、新たな可能性を引き出すためです。実用性に加えて遊び心や柔軟な発想を組み込み、素材そのものの持ち味が自然に立ち上がるように意識しています。 プロダクト製作において、私は工藝的な感覚を重んじています。クライアントからは、サンプルの技術を見て「こんな技法や表現があったのか」と驚かれることもあります。パティスリーブランド「PÂTISSERIE ASAKO IWAYANAGI」のクレープスタンドは、新潟県燕の職人が「へら絞り」という手加工で一つひとつ成形したもの。お菓子がひとつずつ丁寧につくられているからこそ、スタンドも手加工にするべきだと考えました。表面のわずかな風合いや手仕事の痕跡を残し、使い手の中に自然と愛着が芽生えるような佇まいを意識しています。たとえば、金属をはじめとする素材の変化もデザインの一部です。塗装で本来の表情を隠さず、経年変化や個体差を魅力として扱います。一つひとつの個体に使い手ならではの風合いが宿り、使い込むほどその人だけのものとなり愛着が深まっていく。そうした時間の蓄積こそ、プロダクトと持ち主の関係を形づくる要素だと捉えています。柔らかな曲線やわずかな手仕事の跡に温度を感じられるものを目指しています。工藝の核となる魅力をシンプルに造形し、余計な装飾を排した美しい佇まいへ。シンプルさと余白は、私の表現において不可欠な要素です。 私は自ら手を動かすことも好きですが、それ以上に職人とともに考え、発想を広げる役割に魅力を感じています。また、さまざまな素材や職人と一緒にものづくりを行うこと自体が好きだという思いもあります。素材や技法の特性を踏まえながら、柔軟に提案を重ねるプロセスこそが、新しい価値を生み出すことにつながると考えています。デザイナーとしていろいろな可能性を追求したいです。 今後は、領域をさらに広げながらものづくりに挑戦していくつもりです。現在文化庁の取組みに関わる形で、茶道をより身近に愉しめる茶道具の開発にも携わっています。伝統を尊重しつつ、現代の生活に寄り添う形で新しい価値を提示する試みです。 デザイナーに関わらず目標を目指す方に伝えたいのは、粘り強く取り組む姿勢の大切さです。実は、SIMPLICITYへの入社は3度目の挑戦でようやく叶いました。初めは不採用でしたが、卒業制作を携えて再挑戦したことで、道を切り拓くことができました。やりたいことに本気で向き合えば、次の選択肢が少しずつ見えてくるものです。その実感は、現在のものづくりの姿勢にもつながっています。依頼する工房には必ず足を運び素材の特性や技術の背景を把握現代の暮らしに寄り添い伝統を尊重した道具に
元のページ ../index.html#3