左上:傘を広げたときのワクワク感を考えてデザインを考える、左下:イイダさんによるテキスタイルのためのデザインスケッチ雨傘・日傘の生地で制作した布モノなど、日常に彩りを持たせる小物も制作している。上:ミニタオル、下:くるみボタンいいだ・よしひさ多摩美術大学を卒業後、株式会社セルディビジョンの立ち上げに参加。独立後の2005年、傘作家となり「イイダ傘店」を開始。受注会によるオーダーをもとに、日傘や雨傘を手作業で製作している。ほかにも布製品、紙製品などを制作し、異業種とのコラボレートも行う。その言葉を思い出して、最初から自分が見てもらいたいお店に作品を送りました。 それが学芸大学にあったセレクトショップ「バーデンバーデン」。大きくはないけど、好きなお店で、僕の中で一番だと思ったんです。 僕の傘を「すごくいい」と言ってもらえたのですが、「この写真の傘で全部です」と答えたら、「売るものがないじゃない」と。そこでお店の方が、それならオーダーが入ってからつくればいいと提案してくれました。それが「イイダ傘店」の受注生産&手作業というシステムの始まりです。 最初の受注会では20〜30本の注文をいただいたと記憶しています。当時1本2万円として50万円くらい。材料を買うお金もない時期だったので、本当に糧になりました。頑張って納品して、2回目はさらに注文が増え、そこから全国でも受注会を開くようになりました。 うちの傘は基本的には受注制で、布地とサイズ、持ち手を選べるようになっています。持ち手は木の枝を曲げてつくるのですが、節の残り方や木目の出方が一本一本違う。自然の材料で個体差があるのも、一般的な傘と少し違うかもしれません。 お客さんからは「赤い糸で縫ってほしい」「ボタンを少し上にして」などの細かいリクエストもありますが、それを受けられるのも手づくりだからこそ。なくしてしまうのは簡単ですが、なるべく続けていきたいと思っています。 デザインのスケッチは日々描いています。傘をさしたときにどう見えるか、閉じたときの形は美しいか、内側にいる人が明るい気持ちになれるか。そういうことを意識しています。どちらかというと、モチーフよりも素材からスタートすることが多いですね。毛糸を見て「ふわふわしてるな」と思ったとき、八王子のパン屋で食べた180円の甘いだけのシュークリームを思い出して、それをモチーフに柄をつくったり。昔デザインしたのり弁柄の傘もそうですが、最初は深く考えずにつくったものが、お客さんに面白がってもらえて、そうやってイイダ傘店の世界観ができていきました。 最近は完成品の傘を並べた催事も増えていますし、昔から修理もずっと請け負っています。さらに今年の20周年を機に、布の張り替えもスタートしました。手間がかかるので「修理するより新品を買ってください」というのが一般的なのかもしれませんが、そこはひとつの挑戦です。 先日、「傘のポートレート」という企画で、修理前の傘を撮影して本にまとめたのですが、20年も使ってくださっている方もいて、愛着を持って長く使ってくれていたんだなと、すごくうれしかったですね。 なぜあのとき、卒制に傘を選んだのか。やっぱり僕は使えるものに興味があったんだと思います。一見テキスタイルとはグラフィック的な世界という印象が強いのかもしれませんが、実際は立体で、触られて、布の風合いがある。だからこそ、いろいろな可能性がある「素材」と思うことができたんです。「布は平面ではなく、立体物」。多摩美でそれを学び、しっかり向き合えたことが、自分のものづくりの根っこになっていると思います。手づくりだからこそ、細かな好みにも対応できる生活を潤す 道具の力
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