TAMABI NEWS 103号(生活を潤す道具の力)|多摩美術大学
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08キャンディやケーキなどのお菓子から動物まで、さまざまなデザインのガラスペンをなめらかな書き心地のペンを目指して一つひとつ手づくりしているパフェやがま口など、ユニークなモチーフのガラスペンも99年クラフトデザイン卒業もりなが・くみこ2002年から自宅の一室でガラスアクセサリー制作を開始。現在は「ぐり工房」の代表としてガラスアクセサリーやガラスペンなどを制作・販売するほか、体験制作なども実施している。 私が運営する「ぐり工房」では、ガラス棒を卓上バーナーで溶かして加工する「酸素バーナーワーク」という技法を用いて制作したアクセサリーやガラスペンを販売しています。工房で使用しているボロシリケイトガラス(耐熱ガラス)は、一般的なソーダガラスと比べて膨張率が非常に小さく、火にかけても割れにくいところが特徴です。粘性が高いため溶けてもドロドロにならず、冷やして固めると造形にエッジを残すことができます。もともとは卒業制作で“透明の木の実”を表現したいと考えていた際にこのガラスと出会い、自分がイメージした通りの曲線をつくりやすい点に惹かれました。素材の特性と作家の技術が融合することによって美しい曲線が生み出される。この自然と作意のバランスこそがガラス作品の魅力であり、卓上バーナーを用いたシンプルな工程で素材をコントロールできる点におもしろさを感じています。 大量生産品と比べて、手づくりの作品が高価になるのは当然です。しかし、その理由が「人がつくっているから」というだけでは、価値を認めてもらうことは難しいでしょう。実際、私が販売を始めた当初は買ってくれる人が少ない状況でした。転換点になったのは、ミンネやクリーマといったハンドメイドに特化した販売サイトができたことです。手づくりの魅力を理解し、それを買いたいと思っている人が集まるマーケットで作品を販売できることに希望を感じました。同時に、そうしたサイトが流行したことで、心を込めてつくられた道具に高い価値を感じてくれる人の層が広がったように感じています。 どれだけ心を込めるかによって作品の価値が変わると実感してからは、以前にも増して一切妥協せずに作品づくりに励んでいます。特に意識を強めたのは、ガラスペンの制作を始めたタイミングでした。装飾品であるアクセサリーとは異なり、ガラスペンは明確に文具としての機能性が求められます。そのため、ぐり工房ではあえて制作していなかったのですが、世の中の需要の高まりを感じて制作に着手。単に既製品の形を模倣するだけでは道具へのリスペクトに欠けていると考え、人間工学的にペンを分析した論文や、ガラスペンに関する映像を使って理解を深めました。今後も心を込めた丁寧な制作を続け、私の作品を好きだと言ってくれる人々に喜んでもらえるガラス作品を届けたいと思います。イメージ通りの形を描くために選んだ耐熱ガラスのバーナーワーク手づくりだからという理由だけでは価格の価値につながらない ガラス作家 文具としての機能を保ちながら愛着の湧く“宝物”に仕上げていく森永久美子 MORINAGA Kumiko

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