TAMABI NEWS 81号(ゼロからイチの発想力特集)|多摩美術大学
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「ゼロからの発想力を持つ デザイナーには、多くの職種 に対応できる可能性がある」6ロボット事業の復活を担う ビッグプロジェクトを託された二人  1999年に発売され大人気を博したエンターテインメントロボット『AIBO』。2006年3月に生産が終了して以来、多くのファンが復活を待ちわびていた。そして、2018年1月、新世代『aibo』が誕生。その復活プロジェクトを担ったのが、石井さんと高木さんの二人である。ります。テクノロジーの具現化という必然性と、その他のさまざまな必然性を咀嚼し、削ぎ落として考えていくと答えに早くたどり着けると考えているんです。そういう発想に至ったのは、やはり多摩美時代の影響が大きいですね。実は1、2年生の頃はカリキュラムも面白くないし、課題に対する評価もあまりよくないしで、結構へこんでいたんです。不満も溜まっていました。ところが3年生から急に授業の雰囲気が変わったんですね。産学官共同研究が始まったりアカデミックになった途端、俄然面白くなって。そこで気付いたんですが、面白くないと思っていた1、2年生での課題は、自問自答を繰り返して必然性を探り当てるための、デザインの基礎を鍛えられていたんだなと。高木 石井さんが言うように『何でこんなことやってるのかな?』と思う授業もありました。世の中にあるものへの不満点や、おかしなところを抽出して解決しろとか。でも、後から自分の基盤を作るための課題だったことに気付かされましたね。他の美大のことは分かりませんが、多摩美で得られた経験が、今の仕事にすごくプラスになっていると実感しています。 マスターデザイナー高木 紀明95年プロダクトデザイン卒ソニー クリエイティブセンターチーフアートディレクター石井 大輔92年プロダクトデザイン卒石井さんがデザインを手がけた、AIBO『ERS-7』。球が細胞分裂し、徐々にフォルムとなっていくイメージでデザインされた。高木さんがデザインを手がけた、aibo『ERS-1000』。これまでのaiboとの大きな違いは、腰が動き、後ろ足の返しが追加されたことで、より自然な動きが可能となったこと。高木さんが求めたデザインと機能を最新の技術で実現した。Ishi Daisuke サイバーショット、ウォークマンなどのプロダクトデザインを担当。2003年にはAIBO『ERS-7』をデザイン。現在、aibo『ERS-1000』を含む新規事業やモバイル事業領域のプロダクト、インターフェイス、コミュニケーションデザインのディレクション業務を担当。Takagi Noriaki ウォークマンやデジタルカメラ「NEX5」、「RX1」など数多くのプロダクトデザインを担当。2018年に、aibo『ERS-1000』のデザインを手がける。reddot Design賞 Best of Best, iFDesign賞GOLD、Good Design賞金賞など多数のデザイン賞を受賞。石井 僕は2003年に発売された『ERS-7』のデザインを担当したのですが、新発売された『ERS-1000』に関しては、違う立場で関わりました。今回のプロジェクトは、ソニーの次世代機器を考える中でロボット事業の復活という大きなテーマを掲げてスタートし、そのプロジェクトを僕がリードする形で、ソニーのAIロボティクスをどう立ち上げていくかから、ブランディングやインターフェイスなど全体を統括する役割として関わりました。各現場の担当者が力を発揮できる環境をつくることが僕の役割なので、基本的には一歩引いたところから全体を見ていましたね。高木 今回の『ERS-1000』をデザインするにあたっては、石井さんが『ERS-7』をデザインする際に掲げた有機生命体というコンセプトが僕の中にもあって、徹底して球が連続していくようなフォルムを追求しました。僕はあまり可愛いデザインは得意ではないのですが、思わず抱き上げてしまいたくなるようなデザインを意識しました。同時に強く意識したのは安全性でしたね。小さい子供がaiboに頬ずりする光景を思い浮かべて、指を挟まないように、どんなに動いても脚の関節部分に■間ができないようにするとか、顔以外は塗装レスにするとか、こだわった部分は多々ありました。特にこだわったのは全体のフォルムですね。あらゆる仔犬のイメージを抽出して、その特徴を全体にちりばめながらも、形状や骨格、比率などを究極の中間値になるようデザインしています。そうすることで見る人によって異なった犬種を思い浮かべられるように配慮しています。 デザイナーはゼロから何かを作り出せる それはまさに「商品企画」の原点 高木 デザイナーを目指す若い人たちに伝えたいことでもあるのですが、インターネットが普及してピンタレストとかを検索すると、画像が何でも出てくるじゃないですか。あれは、イマジネーション力を殺してしまうのではないかと心配しているんです。便利なので僕も利用しますが、最初からは見ない。まずは自分の頭の中でイメージして、答え合わせのような感じで見ています。キーワード検索して『あっ、あった』とやってしまったら、それはデザイナーではない。ただのリサーチャーです。それと会社に入ってから気づいたのですが、デザイナーとして学んでおくと、いろんなことができるんですよ。デザイナーはゼロから何かを作り出すことができるわけですが、それって商品企画の原点だと思います。デザイナーは、時には企画、マーケティング、設計とさまざまな立場の視点で検証をしながら、具体的なコンセプトやモノに落とし込むことができるんです。石井 僕はどちらかと言うと、インスピレーションよりも必然性からモノを作っていくタイプなんです。メカの構造だけではなく、お客さんが求めているもの、世の中が求めているものもそう。もしくは、会社としての方向性に沿った必然性もあ新世代『aibo』復活プロジェクトの新世代『aibo』復活プロジェクトのクリエイティブディレクションとクリエイティブディレクションとデザインを担当デザインを担当

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