TAMABI NEWS 82号(アニメ-ションの可能性特集)|多摩美術大学
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アニメーションを必要とする場の拡大に、対応できる作家性が重要アニメーションに目覚める きっかけとなった授業と恩師の存在独自の作家性を培う多様な環境密画を見ていただいたところ、『すごく面白い。この絵を動かしてみるといいよ」と言われたことがアニメーションづくりのきっかけになりました」 否定的ではなく肯定的な教育が 可能性の扉を開けた 水江さんは在学中に片山教授からかけられた言葉の数々を今も鮮明に覚え、大切にしているという。 「アニメーション課題の講評会で、僕の作品を見終わった片山先生が『お前の未来は明るい』と言ったんですよ。恥ずかしかったですが、手放しで褒めてもらうことに飢えていたのでうれしかったですね。居場所をつくっていただいた気がしました。自分の持ち味をどういう方向に持っていけば開花するのか、自分で全て判断するのは難しいけれど、片山先生は『こっちに行くんだよ』と示してくれた。だから、安心して作品作りに没頭できたのだと思うんです。また、『ソフトウェアに頼り過ぎる表現をしていてはダメだ』と。面倒でも手間暇を積み重ねた表現が大事だと常におっしゃっていて、その言葉は今も大切にしています。そう考えると多摩美に入学した意味というのは、片山先生と出会うことだったんだなと思うんです。僕の場合、人生において大切なものは、全て多摩美で得た気がしています」  学生の自由な発想と個性を尊重する片山教授の教育方針が、水江さんの未来を方向付けたのである。4 世界4大アニメーション映画祭の全てにノミネート経験があり、数々の受賞歴を持つアニメーション作家である水江未来さん。現在は情報デザイン学科メディア芸術コースの非常勤講師として学生の指導にもあたっている。国際的に高い評価を得ている水江さんだが、アニメーション作家を目指してグラフィックデザイン学科に入ったわけではなかったという。 「僕は2001年入学なのですが、今と違ってアニメーション制作を目的に入学した人は、ほとんどいなかったと思うんですよ。グラフィックデザイン学科でアニメーションを学べるとも思っていなかったので。当初はキャラクターデザイナーやイラストレーターとか、そういう方向で何かしらの存在になりたいと漠然と考えていました」 そんな水江さんがアニメーションの面白さに目覚めたのは、2年次に受けたアニメーションの授業とそれを教える故・片山雅博教授の存在からだった。 「最初の授業の時に、世界初のアニメーションから最新のものまでを数秒ずつつないだ特別編集の映像を見せていただいて『こんな面白いものがあるんだ』と驚いたんです。活動弁士のように名調子な片山先生の解説もすごく面白くて。片山先生に魅了された部分も大きかったですね。その後、細胞を描いた細Mizue Mirai 1981年生まれ。在学中より『細胞アニメーション』と呼ばれる抽象・幾何学図形をモチーフにした作品を制作。ベルリン国際映画祭、ヴェネチア国際映画祭でのノミネート歴や、アヌシー国際アニメーション映画祭で2度の受賞歴を持つ。日本アニメーション協会・理事。上=『WONDER』(2014年制作) @MIRAI MIZUE アヌシー国際アニメーション映画祭2014にてCANAL +Creative Aid賞受賞 下=『DREAMLAND』(2018年制作)@MIRAI MIZUE アヌシー国際アニメーション映画祭2018にてクロージング上映長編『水江西遊記(仮)』 (製作準備中) @MIRAI MIZUE 作家としてだけでなく、メディア芸術コースの非常勤講師として学生を教えている水江さんはアニメーション表現に期待されている現状を踏まえ、こう語ります。「現在、商業アニメーションだけではなく、さまざまなジャンルの表現としてアニメーションが活用されています。言い換えるならば、アニメーションが生かされる場が拡大しているのです。近年は、将来アニメーションの制作に携わりたくて入学してくる学生もいます。それだけに学生たちには、職業や職種を問わず、作家性を持った人になってほしいと思っています。『自分の作家性とは何だろう?』と考えることが、大学時代に一番大事にすべきこと。自分が主体的に動きさえすれば、興味を持ったことを追究していける環境が多摩美にはあります」 多摩美術大学は、アニメーション作家および関連するクリエイターを数多く輩出していますが、専門の学科があるわけではなく、各学科がそれぞれの目的に応じたアニメーション教育を行っています。例えば、情報デザインコースでは、2年次にストップモーションアニメに比重をおいた「時間表現演習」という授業があります。これは、実写撮影によるさまざまな手法のアニメーション演習です。撮影用に人形を作り、それを用いて短尺作品を制作します。映像表現の可能性を知るとともに、映像を制作する際に基礎となる考え方や知識を得ることを目的としています(そのほかの学科について詳しくはP10-11『多摩美で磨くアニメーションの表現力』参照)。このようにさまざまな教育を通して、独自の作家性を培い、表現の可能性を広げています。多摩美におけるアニメーション表現の可能性水江未来メディア芸術コース非常勤講師07年大学院グラフィックデザイン修了「人生において 大切なものは、全て 多摩美で得たような 気がしています」海外でも評価される独自の作家性

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