TAMABI NEWS 83号(若手作家にチャンスな時代特集)| 多摩美術大学
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支援者との運命的な出会いが 作家活動の扉を開けた 「両親から『絶対にアルバイトをするな』と。夢をつかみたいなら、そこに100パーセントの力を注げと言われて、1年間は脛をかじらせてもらっていました。その間、作品づくりに集中して公募展に出し続け、『版画協会展』奨励賞をいただいたことがきっかけで、銀座の画廊で初個展を開くことができたんです。それを機に、『丸沼芸術の森』のオーナーをはじめ、多くの方との出会いがあり、支援を受けることができました。そういう方々との出会い、支援がなければ作家活動は続けられなかったと思います」若手作家にチャンスが 訪れる時代を予感『江戸淡墨大桜』Irie Asuka 2004年の『版画協会展』奨励賞受賞をはじめ、数多くの賞を受賞。2012年から1年間、文化庁新進芸術家海外研修員としてフランス(パリ)に滞在。帰国後は百貨店や美術館などで積極的に個展を開催。『七月に流れる花』 『八月は冷たい城』 著=恩田陸(講談社)※1 DOMANI・明日展…国立新美術館で1998年から毎年開催している展覧会。文化庁の海外研修支援「新進芸術家海外研修制度(在研)」に選出された若手芸術家が、帰国後に成果発表を行う機会となっている。※2 丸沼芸術の森…株式会社丸沼倉庫代表取締役社長の須崎勝茂さんが、若いアーティストの支援を目的に1980年代前半に設立。現在、ジャンルを超えた10数名の芸術家がアトリエを借り、作品制作を行っている。4 定期的に画廊での個展やグループ展を続けていた入江さんだったが、2012年に文化庁新進芸術家海外研修員としてパリ留学を果たす。 「実際、パリへ行くまでは生活面や言葉の問題などで不安ばかりでした。でも行って良かったですね。パリの銅版画工房のディレクターや外国 下絵を描いた紙の上に、銅版画のパーツを細かく貼っていき、水彩や油彩絵具で仕上げるなど独自のコラージュ作品で注目を集める銅版画家の入江明日香さん。ベストセラー作家、恩田陸さんの文庫本の表紙に作品が起用されたのを機に、それまでアートに関心のなかった人たちからも注目を集めている。 「展覧会のポスターにも作品を起用していただいた『第17回 DOMANI・明日展』※1で私の作品をご覧になった恩田さんのご希望から装画のお話をいただき、既存の作品から小説のイメージに合うものを選んでいただきました。そのおかげで読者層の30代くらいの女性からの反響が大きくて。私のことを調べて、若い方が展覧会に来てくださったり、SNSをフォローしていただくきっかけにもなりましたね」 大学院修了後、アトリエ探しを行う中で出合ったのが現在の制作拠点でもある『丸沼芸術の森』※2。かつて、現代美術家の村上隆さんもアトリエを構えていた場所だ。のアーティストたちと交流する場がもてたので、たくさんの良い刺激になりました。」 帰国後、『DOMANI・明日展』選出作品が美術展の企画を行う会社の社長に認められ、百貨店や美術館での展覧会をプロデュースしてもらえるように。その背景にあったのは、百貨店や美術館来場者の高齢化問題だった。 「初めて百貨店で個展をやらせていただいた時に担当者の方から、『社会の高齢化に伴ってお客様が減ってきているので、もっと若い人にも来店してもらいたいと思っている』とお話をいただきました。美術館の学芸員の方からも同じことを言われました。私を起用していただいた理由の一つもそこにあるのではないかと思うんです。現状を変えるためにも作家を育成する意味でも、今後さらに若手にチャンスや作品発表の場が広がっていくのではないかと実感しています」入江明日香銅版画家04年大学院版画修了私が作家として、今も活動を継続できベストセラー小説の表紙や百貨店、美術館での個展も大きな反響を呼ぶ銅版画家

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