TAMABI NEWS 86号(2020年度受賞ラッシュ特集)|多摩美術大学
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 「室さん」こと室越健美さんとぼくは同い歳だった。1947年、戦争が終わって2年目、有史以来最もたくさんの子どもが生まれて「団塊の世代」と後に命名された戦後第一世代。急拵えの民主主義教育、その実験の矛盾と栄光と悲惨のすべてを背負わされた世代。だからぼくらには信頼できる前例もなく、ぼくら自身が躓きながら道を切り開くしかなかった。 ぼくは学生運動などで寄り道をし、室さんは「7浪」という寄り道をし、その後もお互いにずいぶん離れた道の切り開き方をしながら、50代半ばで多摩美大の教員として初めて出会った。でも出会って間もなく、道程は全く異なってきたのに「同志」であると思えた。 それはぼくの勝手な思い込みで、室さんはひたすらがまんしてくれていただけなのかもしれないけれど、室さんとは(学生諸君を見つめながら)遠い希望や、遠い目標や、遠い喜びを共有している、と確信することができた。また一緒にシングルモルトのスコッチを飲みながら、話したかったのに。2004年〜 大学院美術研究科長2019年〜 名誉教授・附属美術館長2019年6月3日 逝去 70歳 本江邦夫さんが一昨年の6月に世を去られてから、早いものでもう2年近くになる。長年にわたる多摩美術大学での教員生活を終えられたばかりで、新たに就任した附属美術館長の仕事に意欲を湧かせていた矢先の急逝であった。 東京国立近代美術館の美術課長という要職にあった彼を多摩美が三顧の礼を尽くして多摩美にお迎えしたのは1998年のことである。爾来、本江さんは期待通り休講は一切しないという教育熱心な姿勢を定年まで貫かれ、また理事や評議員としてもリーダーシップを発揮された。私は彼と入れ替わるようにして一時、大阪の美術館長に転出したが、2015年に学長として復帰して以降は、大学院の研究科長である彼と文字通り二人三脚を組むようにして歩むことになったのである。 本江さんは美術史家としてはルドンなどの象徴主義についての優れた業績があり、美術評論家としては絵画論の先鋭な論客であり、また院生や卒業生など若い画家たちのコレクターでもあった。私個人にとっては、常に歯に衣着せぬ言い方でアドヴァイスをしてくれる■一つ年下の兄”のような存在であったといってもよい。他に掛け替えのいない方を失ったという思いから、未だに抜け出すことができないでいる。1993年〜 同助教授1998年〜 同教授2017年〜 名誉教授2020年4月8日 逝去 72歳名誉教授 堀浩哉学長 建畠晢16長年にわたり多摩美を支えた先生方の在りし日をしのび、ゆかりの方々に寄稿いただきました。2019-2020本江邦夫 名誉教授1998年〜 教授(共通教育)室越健美 名誉教授1992年〜 講師(油画)室さん本江邦夫さんの足跡を偲ぶ追悼

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