TAMABI NEWS 86号(2020年度受賞ラッシュ特集)|多摩美術大学
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19911972関根伸夫■「空相」をめぐる一つのプレゼンテーション■2004長澤英俊■TINDARI■     20072004年〜 客員教授(油画)2015年  多摩美術大学アートテークにて個展     「多摩美をめぐる人々」     「もの派−70年代」2020年8月13日 逝去 81歳 安齊さんの訃報を聞いた日、この事実をどう受け止めてよいのか、あまりの突然なことに心の準備がまったく出来ていなかった。 ここ数年の内に、長澤英俊さん、関根伸夫さんと多摩美の大先輩であり、日本、いや世界の美術界にとっての巨星であるお二人が相次いで旅立たれてしまった。そして、その知らせを最も辛く受け止めていたのが安齊重男その人であった。 安齊さんの初めての渡欧の際、当地ミラノですでにアーティストとしての位置を固めつつあった長澤英俊さんとの出会い、そしてそこから始まった互いへのリスペクトと友情。ルチアーノ・ファブロらアルテ・ポーヴェラの作家たちを紹介し、安齊さんが世界への活動を広げる、その扉を開いたのも長澤さんである。その後、長澤さんはベネチア・ビエンナーレ、カッセル・ドクメンタなどへの参加によってその評価を不動のものとし、イタリアで最も尊敬される現代美術家の一人となった。 そしてもの派の代表的な作家である関根伸夫さん。1968年須磨離宮公園で発表した「位相―大地」は現代日本美術界で最も重要な作品であり、また出来事でもあった。その発表初期から安齊さんが写した記録は、完成した作品写真だけでなく、制作の過程や設置の現場にも及んだ。作家に寄り添うその撮影スタイルは、その後自らを現代美術の伴走者と呼ぶ所以でもある。安齊さんにとってその二人のアーティストとの関係は特別であったのだ。 安齊さんは2004年から本学の油画専攻の客員教授として多くの学生や卒業生と関わった。2009年学生とともに作り上げた現代美術の入門書とも言える■水曜日5限目■の冊子制作と展覧会の開催。2015年には本学の80周年事業として、またアートテークのお披露目の展覧会として「多摩美をめぐる人々」「もの派­70年代」。2015年から3年間、文化庁から助成を受けた埼玉県立近代美術館との共同研究「もの派資料」では写真提供とシンポジウムパネリスト、展覧会発表等、その他多くの企画や教育活動にご協力いただいた。それらの活動で得られた資料、データをもとに「安齊重男フォトアーカイヴ」として、安齊さんから直接ご指導いただきながら、その構築に向けて歩みだしたばかりであった。 若い人が好きだった。真剣に美術に向かうアーティストには年齢を問わずリスペクトし、伴走者として全力でサポートした。そして自らがもっとも美術を愛し、信じていた。 安齊さんの半世紀以上にわたる全ての仕事、また交友について語るには紙幅が足りない。一枚のカットについて質問すれば、とめどなく出てくる安齊節をもっともっと聞いておきたかった。いや、聞いておくべきだった。そして我々アーティストにとって、安齊さんに作品を見てもらえないことが本当に辛い。何故ならばどんな批評家より、どんな学芸員より、どんな美術記者より、あるいはどんなアーティストより、最も現代美術を見ていた最高の目利きだったから。 本学キャンパスの正門には関根さんの〈空相〉が、東門を入ると長澤さんの〈TINDARI〉が私たちを迎えてくれる。そして多摩美術大学アートアーカイヴセンターの「安齊重男フォトアーカイヴ」は、現代日本美術研究の貴重な資料として、今後の研究に大きく寄与することを確信する。 それぞれはあまりに大きな星であった。しかしその光は消えることはない。遺された作品群、また記録や記憶の全てをもって、私たちにとってのメルクマールとして燦然と輝き続けることだろう。そしてその輝きこそ、さらにその先を目指すことを私たちに託している光であるとも思えるのである。油画教授・美術学部長 小泉俊己17TAMABINEWS安齊重男 客員教授長澤英俊 客員教授2018年3月24日 ミラノにて逝去 77歳関根伸夫 客員教授2019年5月13日 ロサンゼルスにて逝去 76歳その光の先へ

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