TAMABI NEWS 87号(日本画の伝統を超えて自由な発想が生まれる理由)|多摩美術大学
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油画専攻村瀬恭子 教授 日本画とは異なる領域に身を置く私にとって、「タマビDNA」展で展示された作品の数々は、世代を超えて互いに自由を競いあっているようでした。タイトルにある「DNA」という言葉は、一種の謎かけのようです。多摩美の日本画の、何が変化したのか/しなかったのか。また、加山又造と横山操の二人から現役世代までの作品が集められた本展からは、未来を見据えようとする意思も感じられます。まさにそのような意思が、つまりこの展覧会の動機/コンセプト/内容自体が、多摩美のDNAを表しているようにも思えます。本展がこのタイミングで開催されたことの意味を考えさせられます。自分は一体何を見たのか。大きく考えさせられる展覧会でした。グラフィックデザイン学科佐賀一郎 准教授 印象に残った作品は、強い輝きを放つ上野泰郎先生の作品、揺らめく水面の表現をいつまでも観ていられる北村さゆりさんの『映・春の風』、そして美術館1階の陳芃宇さんの『繋がった日から』も圧巻であった。 初めて観る作品が多かったが、画材と画題において日本画の伝統を継承する優れた作品から、素材やテーマ、表現方法も日本画からは逸脱した斬新な作品まで鑑賞することができた。一見同じ遺伝子を持つとは思えない多様性こそが日本画専攻のDNAなのだろうと納得し、眼福にあずかることができる素晴らしい展覧会を拝見した。しかし、学科・専攻を超えた学生や、世代の違う卒業生たちにもそれぞれに簡単には消し去れない多摩美のDNAが存在するのであろうなと想像力を刺激してくれる展覧会でもあった。テキスタイルデザイン専攻柏木弘 教授 本学の日本画専攻は進取の気性に富んだ創造性の高さを特徴としてきたということを、かねてから認識していた。実際に「タマビDNA」展を見て、表現の多様性こそが『DNA』であるという、字義の深さを考えさせてくれる展示内容に感心した。多世代にわたる作品のほかに、本展のために制作された映像資料を視聴し、加山又造と横山操という、まったく作風や思考の異なる二人の日本画家が同時期に教鞭を執っていた点に理由を探り出せた。それも、この展覧会の非常に大きな成果だったと思う。挙げるべき秀作は枚挙にいとまがないが、加山又造の《倣北宋水墨山水雪景》が特に心に残った。創造の原点に模倣があることを改めて認識させてくれたからだ。芸術学科小川敦生 教授教師としての加山・横山の作家像が垣間見えた印象深い展覧会 会場内で流されていたインタビュー映像により、教師としての二人の画家、加山又造と横山操が初めて身体を持って姿が立ち上がった。加山氏の猫のスケッチ、何枚もトレースするように引かれた線、点で線をつづる箇所を見つけて、本画である彩色画を見るよりも作家像が垣間見えるような気がして印象に強い。先日「ボイス+パレルモ展」を観覧したところだったが、同時代にドイツのアカデミーで師弟関係にあった二人の作家、1本のドキュメンタリーを観終わるような展覧会構成で作品への視点が示されたようだった。展覧会を訪れて作品の前に立っていた作家の体臭のようなものを発見する経験は喜びだ。多摩美の油画科ではどんな出会いがあったのだろうかと思いを巡らした。油画専攻 日野之彦 准教授プロダクトデザイン専攻安次富隆 教授メディア芸術コース久保田晃弘 教授共通教育椹木野衣 教授 個人的には、やわらかい筆で丁寧に描写している絵に惹かれました。展示されている一つひとつの作品の描かれ方がどれも違っていて、手で描かれていることの魅力を会場全体から感じました。会場で流れていた映像では、現在の先生方が学生の頃のエピソードや先生から掛けられた言葉について具体的に語っていて、内容が生々しく興味深かったです。 日本画専攻は油画専攻と同じ絵画学科ですが、油画専攻ではあまり見ないような思いがけない形や筆運びを見てとることができて新鮮に感じます。今回のように他領域の作品を展覧会で実際に見ることができると、見る人自身がそれぞれに、その時の自分にとって大事なことを発見し学びとることができるので、このような機会は有意義に思います。 数年前に加山又造の作品集をじっくりと見る機会があり、デザインとして、その洗練された構図や美しいライン、色彩に、非常に心を惹かれました。横山操は力強い富士山の絵の記憶が鮮明に残っています。その二人の教えを受けた中野嘉之先生、米谷清和先生は大学で親交がありました。中野先生には2019年に私がデザインディレクションと照明演出を担当した昭和大学の緞帳製作で富士山の原画を描いていただいたのですが、その迫力は横山の富士山を超えていると感じました。米谷先生の展覧会に何度か足を運んだ際、横山の影響を感じましたが、二人のDNAの受け継ぎ方がかなり異なっていることを興味深く思っていました。本展を観て図録の木下先生の論考を読むと、その理由がわかったような気がします。岡村先生の半立体画のような作品は大変魅力的で、本学への着任は新たな『タマビDNA』としてロバスト性を高めたものと確信しています。 「タマビDNA」展の、特にアートテークギャラリーにおける、より新しい世代の作家の作品群から感じたのは、大学教育におけるDNAである、長い歴史を有するカリキュラムという隠れた遺伝物質から発現した、エクリチュールの驚くべき、そして豊かな多様性である。それに対して、90年代に生まれたメディアアートは、はるかに若くいまだ幼い。そこには、DNAのような安定した自己複製物質は未だ存在せず、マイナス70℃で保管しなければならない新型コロナワクチンに用いられているような、そして原始地球上に存在したと仮定されているような、不安定なRNAが激しく分解・変異・融合・合成し続ける「RNAワールド」の状態が今なお続いている。ぜひ次の機会には「タマビRNA」展の開催を! 日本画はとかく「伝統」や「継承」と結び付けられやすい。けれども、実際には近代日本に生まれた比較的新しい芸術の分野なのだ。西欧からの技法やイメージもたっぷり伝授されている。言い換えれば、とかく消極的に指摘されがちな日本画の定義のあいまいさは、実は日本画最大の魅力でもあり、可能性でもあるかもしれない。そんな日本画のダイナミズムが、本展では明快に、最大限に発揮されていたと思う。だからこそ『DNA』なのだろう。遺伝子に伝統も継承もない。あるのは高分子からなる多様な写像と、おのずと生じる誤読と突然変異だ。その全てを受け入れるなら、種は未知なる未来へと開かれる。今回のDNAモデルを通じて、タマビNihongaにさらなる未来の自由と意力を!未来を見据え、世代を超えて自由を競いあう作品たち多摩美のDNAは学科・専攻を超えて存在する進取の気性に富んだ創造性の高さこそ日本画専攻の特徴発見と学びのある有意義な機会加山・横山の感性と美を超えて受け継がれる『DNA』日本画のダイナミズムを明快に、最大限に発揮した展覧会エピジェネティクス隠れた遺伝物質から発現した作家たちの驚くべき多様性日本画の伝統を超えて自由な発想が生まれる理由多摩美術大学美術館 特設サイト「現代日本画の系譜 タマビDNA」13他学科の先生から見た「タマビDNA」展TAMABINEWS

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