TAMABI NEWS 93号(突き抜ける力)|多摩美術大学
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「メルセデス・ベンツ アート・スコープ」の参加者にはプログラム参加後、フランスのパレ・ド・トーキョー、スイスのティンゲリー美術館といったヨーロッパの名だたる美術館で個展を開催した泉太郎さん(多摩美術大学大学院美術研究科 修士課程修了)をはじめ、世界で活躍されるアーティストが大勢いらっしゃいます。「メルセデス・ベンツ アート・スコープ」の情報はこちら左:江頭さんの卒業制作「大阪冬の陣」、右:「SICF17」グランプリを受賞した「お花畑」メルセデス・ベンツ日本株式会社 マーケティング/O2O推進部部長長谷川孝平スパイラルにて開催された個展「Rose Blanket Collection' 16」静岡県島田市と川根本町で開催された「UNMANNED 無人駅の芸術祭」にて、地元の方に作品を身にまとってもらった「間にあるもの」江頭さんの作品が使用されたグッチのショートフィルム「KAGUYA by GUCCI」(2022)03突き抜ける力なぜグローバルなトップ・ブランドは、アートに注目するのか?グローバルな飛躍が期待できるアーティストに自由な創作と国際交流の機会を提供したいグローバル企業の社会的責任として文化芸術支援活動を推進常に自由な発想で創作し世界に挑戦してほしい5年ぐらい花柄毛布で制作し続ければ代名詞になると言われる作品にしてみようと思い立ち、1か月くらいで制作しました。花柄毛布をミシンで縫って、綿を詰めて、お城の形に仕上げた作品です。 ただ、作品を卒業制作として発表しても反響は特にありませんでした。それで、一度作品制作はあきらめ、履歴書の自己PR欄に「一生働きたいです」と書いて、家具店に就職します。家具のカスタマイズは彫刻学科の経験にも似ていて、楽しい仕事でした。人間関係に恵まれ、同僚とクリエイティブな話ばかりをしていたように思います。 作品制作を再開したのは、同僚との会話がきっかけでした。初めて披露したつもりのアイデアに対して、「これで聞くのは5回目。そんなに言うなら自分でやったほうがいい」と背中を押されたんです。それが発泡スチロールで制作した霊柩車を花柄毛布で覆う作品で、サイズ制限のなかった岡本太郎現代芸術賞に申し込み、特別賞を受賞できました。 メルセデス・ベンツは、グローバル企業として環境や文化、教育など、幅広いCSR活動を実施してきました。文化芸術支援としてアーティストをサポートしてきたのも、その一環です。本国ドイツでは「メルセデス・ベンツ アート コレクション」を1977年に設立。ヨーロッパで最も重要な企業コレクションに数えられ、国際的な評価を得ています。日本でも30年以上に渡り、アーティストに滞在制作や展覧会の機会を提供してきました。 現在も芸術・文化のさらなる発展に寄与するため、「メルセデス・ベンツ アート・スコープ」を通じて、現代美術の有望な若手アーティストの育成と国際交流を促進しています。滞在先でのリサー 受賞をきっかけに独立しましたが、ギャラリーの展示などのオファーはありませんでした。彫刻学科で教わっていた黒川晃彦先生に相談したところ、「作品ひとつを発表したくらいで何を言っている。5年くらい花柄毛布で作品を制作し続ければ、そのうち代名詞になる」とアドバイスをいただき、新作の制作機会を模索するようになりました。 そうして申し込んだのが、若手作家に向けた公募展形式のアートフェスティバルであるSICF17です。空間的な制約から逆算し、コンパクトなブース全体を洋室トイレの個室に見立てて、発泡スチロールで形作った便座など空間すべてを花柄毛布で覆いました。結果的にグランプリを受賞し、展示やコラボレーションの依頼が途切れないようになりました。 私がアーティストを続けられているのは、いろんなところに自分の居場所を持っていたからです。人間関係だけでなく、今も非常勤講師や絵画教室をやっているように、仕事環境という面でも同じです。退路を断つというと潔く聞こえるけれど、すべてを一本化してしまうと、かえって作品の純度が損なわれることもあるでしょう。人によっては自分に偶然性の余地を残しておくことが、転機を乗り越えていくうえで大切なように思います。チをベースとしたアーティスト・イン・レジデンスの形をとっているのは、アーティストの方々の人脈形成や文化理解を後押しするためです。この経験がアーティストにとってキャリアの糧となってグローバルな飛躍につながり、アートを軸とした国際交流が広がっていくことを期待しています。 また、多摩美術大学と連携協力を結び、学生とアーティストの交流も推進しています。グローバルに活躍しているアーティストが、どのような着眼点やアイデアで活動しているのか。どのようにリサーチを進め、作品を制作しているのか。さまざまなノウハウを次世代のアーティストに活かしていただきたいと思います。 アーティストには常に自由な発想からなる創作活動を期待しています。オープンマインドで開かれた活動をし、現代アートが今よりもっと親しみやすいものになればうれしいです。もちろん、ヨーロッパ発のグローバル企業として、これからも世界に目を向けてチャレンジしていくようなアーティストを応援したいとも思っています。

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