TAMABI NEWS 93号(突き抜ける力)|多摩美術大学
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I KOBAYASHMukuアーティスト小林椋17年大学院情報デザイン修了05文化庁メディア芸術祭アート部門審査委員会推薦作品に3度選出 作品を作り続けることで得られたメディア芸術祭や個展のオファー突き抜ける力サウンドアートの授業を受講して出会いと制作スタイルを獲得出会いを通じ視野が広がるのが大学でアートを学ぶことの魅力多摩美術大学大学院美術研究科修士課程情報デザイン領域修了。京都市立芸術大学大学院 美術研究科修士課程彫刻専攻修了。国内を中心に個展やグループ展を開催。時里充とのユニット「正直」としてもパフォーマンスを行う。第20回、第22回、第24回文化庁メディア芸術祭アート部門審査委員会推薦作品に選出。左上:第20回文化庁メディア芸術祭 アート部門審査委員会推薦作品「丈の低い木の丈は低い」、右上:第24回文化庁メディア芸術祭 アート部門審査委員会推薦作品「ソテツとてつもなく並」、左下:小林さんの卒業制作「蚊帳をうめる」、中下:トーキョーワンダーサイト本郷(当時)で開催された企画展示「TOKYO EXPERIMENTAL FESTIVAL Vol.9」より「ヨコとか下とか」(撮影:Kenji Takahashi)、右下:第22回文化庁メディア芸術祭 アート部門審査委員会推薦作品「ローのためのパス」 もともとは環境デザイン学科に入学したのですが、情報デザイン学科のサウンドアートの授業を受講した際に、「自分が学びたいのはこの分野かもしれない」と考えて転科を決め、大学院まで進学しました。ノイズ・ミュージックや現代音楽に関心があったことも、音を用いたアート作品をつくりたいと思ったきっかけのひとつでした。「音のアート作品」と聞くと「音楽」をイメージする人がほとんどだと思いますが、私が興味を抱いた対象は、音そのものの原理です。素朴な動きをするモノとモノがぶつかって音を発するような装置を並べ、音の仕組みや構造を客観的に伝えられるような作品を制作していました。 情報デザイン学科メディア芸術コースで出会ったのが、当時助手として大学にいた時里充さんです。時里さんは、映像を通じて映像の仕組みを表現するという、私が音でやりたいと考えていたことを、映像で実践している人でした。そこから、私の関心は映像分野にも広がり、時里さんとは現在も「正直」というユニットで一緒に活動しているので、本当に貴重な出会いだったと思っています。同時に、音を鳴らす装置を制作するなかで、その装置の造形にもこだわりたいと思うようになりました。目的がありそうでない、不必要性を孕んだデザインを装置に落とし込みたいと考えたのです。自分でも予想できないような要素が挿入されたデザインは、現在の制作スタイルにもつながっています。 自分にとって作品づくりは、評価を得るための手段ではなく、生きるうえで不可欠な、生活と切り離すことのできないものです。ただ、続けているとありがたいことに、メディア芸術祭での推薦や個展のオファーをいただけるようになりました。なかでも、自分の作品が愛知県美術館に収蔵されたときは、大きな美術史の流れのなかに自らの存在を位置付けられたという点で非常にうれしかったです。大学でアートを学ぶことの魅力は、こうした学内外の出会いを通じ、自分の視野が広がっていくことにあると思います。多摩美ならではの人脈もありますし、同じ大学の出身ということで気にかけてくれる方もたくさんいます。 ただ、この視野の広がりは、作家になった場合にしか活かせないというものではありません。アートの世界で出会うのは、他の人が理解できないようなことを突き詰めている人ばかりです。そのため、その考えの端に触れるだけでも、感性を刺激し、新しいものの見方を提示してくれます。私は、作家を続けることが美大生にとっての成功だとは思っていません。そこには、続けている人なりの悩みや苦労があるからです。そして、作家として活躍することが偉いとも考えていません。大切なのは、多摩美で培った技術や感性を、人生のなかでどのように活かしていくのかということです。アートとは直接的に関わらずとも、大学で学んだものを持って社会に出ていくこと自体に、大きな意味があるのではないかと思います。

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