TAMABI NEWS 93号(突き抜ける力)|多摩美術大学
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「文化庁メディア芸術祭優秀賞」受賞、「アルスエレクトロニカ」に招待滑らかな姿勢で作品と向き合い壁をも滑らかに乗り越えていく第17回文化庁メディア芸術祭 エンターテインメント部門優秀賞を受賞した卒業制作の写真08クラブ棟の仲間とすごす時間と先生たちの後押しが世界を広げた制作で心がける「滑らかさ」がバレンシアガとのコラボにも発展 多摩美ではFlashコンテンツやデザインを学びながら、それ以外の大半の時間を、ゲームをしたり、漫画を読んだりと、クラブ棟の仲間とすごしていました。なにかしらの一芸を持った人たちが集まり、尊敬し合えるコミュニティが形成されていたと思います。私も切磋琢磨するように、得意分野のプラモデルをつくり続けていました。プラモデルはあらゆるものを思いどおりに表現でき、かつエントロピーが極めて低いので、自分にはぴったりでした。 卒業制作に発表したハイブリッド・ジオラマも、プラモデル制作の延長線上にあります。同じく身近な存在だったコンピュータの内部が秘密基地に見えるという着想から、プラモデルを組み合わせた作品です。矢野英樹先生にも「池内くんがやっていることは芸術かわからないが、限界芸術という概念もある」と背中を押され、自己満足かもしれませんが、納得できる作品を追求できたと思います。第17回文化庁メディア芸術祭 エンターテインメント部門優秀賞を受賞した卒業制作SAIで開催された個展「IKEUCHI HIROTO EXHIBITION」より それを褒めてくださった久保田晃弘先生の後押しもあって出展したのが、第17回文化庁メディア芸術祭です。エンターテインメント部門で優秀賞を受賞し、周囲の目が少しずつ変わっていく転換点になりました。 受賞をきっかけに「アルスエレクトロニカ」へ招待されました。ウィーンやリンツでさまざまな芸術に触れ、特に感動したのが、シェーンブルン宮殿の庭園にあるグロリエッテという建物です。本当に泣き出してしまったほどで、帰国して久保田先生にそのことを伝えると、「芸術にはそういうパワーがある」と教えてくれました。見る人の感動を呼び起こす力とでも言いましょうか、今にもつながる大きな学びでした。 作品にパワーを持たせるために私が大事にしているのは、「滑らかさ」です。卒業制作に迷ったときには、学生生活をそのまま反映したような作品にしましたし、造形作家を仕事にするために悩んだときには、出会いに流されるようマネージャーに就いてもらうことにしました。壁にぶつかっても滑らかに、エントロピーの低い方向に進むことを心がけていたのです。バレンシアガとのコラボレーションなど、活動の幅が広がったのもそうした姿勢だったからのように思います。作品にもいえることで、背景の文脈の一貫性や、構図の視線誘導のスムーズさを重要視しています。文学や哲学を作品に取り込むのも滑らかな作品に仕上げるためですが、同時に博識だったクラブ棟の仲間に認めてもらうこともどこかで意識していたのかもしれません。 私の原点はクラブ棟で仲間とすごしていた時間にあります。香水で例えるなら、濃縮した原液を抽出する工程。販売するにはそれを適度に薄めて、パッケージングして、ブランディングしないといけません。多摩美でのモラトリアムともいえる期間は、自分の中の原液となる部分を追求できると思うので、学生の皆さんにも原液の抽出に専念していてほしいですね。2013年に多摩美術大学情報デザイン学科を卒業し、同年に第17回文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門優秀賞を受賞。既製品のプラモデルや工業製品のパーツを組み合わせた造形作品で国内外から高い評価を受け、世界最高峰のメディアアートイベント「アルスエレクトロニカ」に招待される。造形作家13年情報デザイン卒業IKEUCHI イケウチ

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