TAMABI NEWS 97号(多摩美の建築)
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撮影:藤塚光政 多摩美術大学アートアーカイヴセンターでは、3月から大野美代子アーカイブ「ミリからキロまで」資料展が開催されます。1963年に本学デザイン科を卒業した大野美代子は、インテリアデザイナーとしてキャリアを積んだ後、橋梁デザインの分野に活動領域を拡張していきました。出世作の蓮根歩道橋(東京都板橋区)をはじめ、横浜ベイブリッジ(神奈川県)や鮎の瀬大橋(熊本県)などの名橋を手がけた彼女の仕事は、公共空間に人間の居場所の必要性を明示した、環境デザインにおけるパイオニアワークとして高く評価されています。 大野の作品がいかに革新的で、どのような感性によって生まれていたのか。資料展を監修した、環境デザイン学科教授の湯澤幸子先生にお話をうかがいました。 大野美代子について語るうえで、まず言及されるのが、代表作である蓮根歩道橋ではないでしょうか。インテリアデザイナーとして活動していた彼女にとって、橋梁デザインなどの土木に領域を横断していく転機となった作品です。 1977年竣工のその歩道橋で、大野は中央に休憩スペースとなるベンチを置き、通路に点字テープを貼った手すりやスロープを設置しました。社会的弱者の快適性をも包摂した公共デザインは、今でこそめずらしくないかもしれません。しかし、経済効率を最優先していた当時においては、前例のない発想でした。提案の場で「いったい、誰が利用するのか」と大野美代子の代表作のひとつ「横浜ベイブリッジ」022024年4月から「環境デザイン学科」が「建築・環境デザイン学科」に変わります。「建築」、「インテリア」、「ランドスケープ」と、人の暮らす環境すべてをデザインする学科としての役割はそのままに、建築の新たなニーズに対応できる力、表現によって新たな価値を生み出す力を身につけられる学科として期待が高まっています。そこで今回は、多摩美術大学の建築をクローズアップします。日常的な視点から公共建築を考えた人の生活と共生するデザイン橋梁デザイナー環境デザイン学科は2024年4月から建築・環境デザイン学科に変わります。日本の風景を変えた公共デザインに対する使命感大野美代子[63年デザイン科卒業]感性で人の暮らす環境を豊かに快適に多摩美の建築

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