TAMABI NEWS 97号(多摩美の建築)
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家具をつくる手法を建築に応用し製造方法から開発・加工された湾曲集成材、木材ならではの美しさも引き出しているでした。というのも、追加コストが必要になる太陽光発電や壁面緑化は、予算の都合でまず最初に削られる対象だったのです。そこで考えたのが、環境に配慮した技術を付加的に導入するのではなく、建物そのものを環境配慮型にするという方法でした。 きっかけは、横浜市にある商業施設「サウスウッド」の設計依頼です。そこで二酸化炭素を吸収して固定する働きを持つ木材を主要構造部にすることを提案。日本初の1時間の耐火性能を持つ大規模木造商業施設を実現しました。施設の規模に応じて、耐火性能など国で定められた基準をクリアする部材が必要になります。サウスウッドを設計した当時はまだ大規模な木造建築の前例がなかったため、耐火集成材の確保には苦労しましたね。竹中工務店と共同で構造実験や耐火実験を重ね、もともとあった耐火集成材をさらにアップデートする形で大臣認定を取得し、無事導入に至りました。日本建築学会賞を受賞した「新豊洲Brilliaランニングスタジアム」04建築家障害者アスリートの環境を改善し日本建築学会賞を受賞 全天候型60mトラック、パラアスリートを支援する義足開発ラボラトリーなどを有する「新豊洲Brilliaランニングスタジアム」の設計でも、資材開発から取り組みました。そのひとつが、木材の繊維方向が各層で直角に交わるように貼り合わせて厚型パネルにした「CLT」という資材です。具体的には、ヒノキの産地として知られる長崎県と共同開発を行い、ヒノキとスギのハイブリッドCLTの製造に成功。2種類の木材の合成によって、予算を抑えながらも高い意匠性を実現できました。「新豊洲Brilliaランニングスタジアム」の設計では、環境への配慮に加えて、障害者アスリートのトレーニング環境改善への思いがありました。この設計を依頼いただいた際に、パラアスリートを取り巻く環境について話を聞いたんです。例えば、障害者と健常者が同じ環境に配慮し、素材から追求された建築国内で先駆けて実現した、環境配慮型の木造商業施設 1991年に私が立ち上げた「E.P.A環境変換装置建築研究所」では、環境配慮型の建築を推進しています。2009年以降は、全ての設計において木材を主要構造部に採用するなど、持続可能な環境を目指して取り組んできました。環境問題に関心を持つようになったのは、学生時代のことです。当時からメディアで環境問題が取り沙汰されていて、多摩美の学食で流れていたラジオでオゾン層破壊に関するニュースを耳にしたことを覚えています。当初から「環境を変換する装置」として建築を捉えたいというコンセプトは決まっていたため、独立後はすぐに「E.P.A」を設立。太陽光発電や壁面・屋上緑化、地下水を利用したエネルギー供給システムといった新技術を採用した設計を始めました。しかし、実際にはこれらの新技術はなかなか導入に至りません木造建築のデザインを通して、人と環境に寄り添う方法を一から考える武松幸治[86年建築科卒業]

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