TAMABI NEWS 97号(多摩美の建築)|多摩美術大学
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上・下:自然と調和し、周囲の環境に溶け込む白州蒸溜所のレストラン「Hakushu Terrace」04建築家にとって重要な仕事は課題に対して選択肢を提示することスクラップ&ビルドの都市には人々の思い出が残らない課題の本質はどこにあるのか?素材と設計で最適解を導き出す素材にこだったサステナブルな建築デザイン 商業空間から住宅、展示、インテリアまで、現在は幅広く設計やデザインを手がけていますが、私としては“ものをつくる”という点においてそれぞれに大きな違いは感じていません。すべてに共通しているのは素材へのこだわり。きちんとした素材で長く使ってもらえるものをつくりたいというのが、私の根底にある思いです。子どものころに通っていた学校の記憶を辿ろうとすると、教室の匂いや机に触れた時の感覚が強烈に印象に残っていたりしますよね。一方で、スクラップ&ビルドが繰り返される現在の都市には人々の思い出が蓄積されず、非常に心もとない世界になっているという実感があります。だからこそ、長く残る建築や空間を生み出すことによって、記憶と場所がつながるような社会をつくりたい。そういったコンセプトでこれまで仕事に取り組んできました。 私が担当した近年のプロジェクトとして、サントリーが所有する「白州蒸溜所」のレストランのリニューアルがあります。クライアントの要望は、もともと建物があった敷地内に2階建ての建築をつくり、新たにレストランとフリースペースとして活用したいというもの。サントリーは自然保護活動に力を入れており、白州蒸溜所の周辺にも植林したカラマツの森が広がっています。そこで私が考えたのは、屋根の素材として銅を使うことでした。銅貨をイメージしてもらうとわかりやすいと思いますが、初めは光沢のある銅も経年によって木肌のように色の深みを増していきます。さらに、空気がきれいな場所では30年ほどかけて徐々に青色に変化していく。自然と同じように変わっていく銅を素材に用いることによって、企業理念と自然、建築が一体となったストーリーを紡げるのではないかと考えました。 仕事をしていてやりがいを感じるのは、クライアントの課題を「設計」というフォーマットで解決できる道筋が見えた瞬間です。最近では設計の前の段階、つまり「こういう課題を解決したい」というところから相談いただき、それに適した方向性を探るブランディングの仕事を担う機会が増えました。例えば、セレクトショップのデザインを依頼された場合、「セレクトショップとはなんだろう?」というところから一緒に話し合い、クライアントの目的や考えを整理し、まとまった内容に応じて私がさまざまな選択肢を提案していきます。事前ミーティングの時点から「どうしてそう考えているのか」という問いを繰り返し投げかけることにより、固定概念から解放されたバリエーションを示す。それが私にとって重要な役割だと考えています。その点建築家工藤桃子 [06年環境デザイン学科卒業]

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