■「環境デザイン学科」が「建築・環境デザイン学科」に変わる意味さまざまな工芸建材に直に触れて体感できる「TACTILE HOUSE OSAKA」2006年、多摩美術大学環境デザイン学科卒業。組織設計勤務のち工学院大学藤森照信研究室修士課程修了。16年、MMA Inc.を設立。建築設計のほか、インテリアデザイン、展覧会の会場構成も手がけている。か。当然、総合大学同様に建築士の国家試験受験資格も取得することができます。 例えば素材実習の授業では、木材からスプーンを作り出し、漆の授業で作った器でアイスクリームを食べることを課しています。素材や形が変われば、アイスクリームの味覚も変わるということを、五感を通して体験的に学び取れるはずです。座学では感じられない、これこそ建築のリアリティではないでしょうか。木材に限らず石材やコンクリート、金属など、扱う素材が多摩美で最も幅広いのも、本学科の特徴だと捉えています。 そして、素材の傍には必ず人がいます。実際の現場でも、大工や左官など素材を扱うのは施工者となる職人です。そこで、さまざまな現場の方々をお呼びし、講義をしていただいています。他学科と異なり、自らの手で作品そのものを生み出せないことにフラストレーションを感じることもあるでしょう。しかし、将来的にはひとりの手に負えないスケールのものが築けるようになります。建築のリアリティを通して、そうした可能性を開いていくことを、学生たちには期待しています。05自分の“クセ”にとらわれない柔軟な視点を養う経験を松澤 穣 先生 環境デザイン学科長 2024年度から「環境デザイン学科」 は、「建築・環境デザイン学科」に名称を変更します。その狙いとしては、本学科がデザイン対象とする分野を再定義することにあります。 これまでの環境デザイン学科では建築、インテリア、ランドスケープという3分野を横断し、身の回りのすべての事象を「環境」という言葉で捉えてきました。建築では安全を確保するための構造的な部分や人々に安心感を与える設計など、インテリアでは人とモノの心地よい関係性をめざした空間の構築を学びます。そして、ランドスケープは、自然や都市のあり方を総合的に捉え、空間をデザインすることを指しています。いわゆる「建築の構造」のように矮小化された狭義の建築だけを学ぶのではないという意味を込めて、「環境」と定義することが重要だったのです。 しかし昨今、「環境」という言葉は、身の回りの空間としての意味合いだけでなく、より広義の解釈に発展してきています。気候変動やカーボンニュートラルなどがいい例でしょう。要するに、「環境」だけでは、その対象が判然とせず、建築や空間デザインの意味合いが薄れてしまうのです。そこで、「建築・環境デザイン学科」と名称変更することで、「建築」と「環境」の再定義を行いつつ、本学科がめざす「身の回りのすべての空間」を総合的にデザインすることの重要性を提示していければと考えています。 日本で建築を学ぶというと、総合大学で構造や設計など理論的な分野を磨くことがまず想起されるでしょう。しかし、目の前に大きなスケールをもって存在するものが、美の対象でないはずがありません。理論だけでなく、徹底的に感性を養うことができるのは、多摩美ならではの取り組みではないでしょうにおいて、自分はアーティストにはなれないという自覚があります。ゼロから表現することよりも、ある課題を設計やデザインで解決することに強い興味があるからですね。 直近で設計を担当した「TACTILE HOUSE OSAKA」も、まさにそうしたプロジェクトでした。クライアントである堀田カーペットさんは、ウールのカーペットを生産する歴史ある企業です。日本の伝統的な工芸文化が失われつつあることに危機感を抱いており、工芸ブランドとして知られる中川政七商店さんと共同で工芸の魅力を発信する空間をつくりたいという要望をもらいました。その思いを受け取って設計したのが、宿泊施設とショールームを兼ねた施設です。タイルや漆塗り、織物、和紙といった多様な工芸品に触れられると同時に、実際に宿泊して工芸建材を体感することができます。素材の質感というものは、実際に触れてみないとなかなか理解できません。特にカーペットの場合、裸足で歩いてみたり、寝転がったりしてみて初めてわかることがあります。そうしたクライアントの課題が、宿泊施設を兼用するというアイデアにつながっていきました。 建築家として幅広いプロジェクトに関わるなかで、多摩美での学びは力になっていると感じています。私が所属していた環境デザイン学科で特殊な素材を使う機会は限られましたが、キャンパス内では学生たちがあらゆる素材を用いて制作に取り組んでいました。演習で他学科に協力してもらった際、「ガラスってこんなに伸びるんだ」といった新鮮な発見があったことは、多様な素材を活用する現在の仕事に大きな影響を与えています。また、先生たちから自分の“デザインのクセ”を指摘されたことも印象に残っています。もちろん揺るぎない軸を持っていることは重要ですが、それを自覚しているかどうかで設計やデザインの内容は大きく変わります。建築を学ぶうえで大切なのは、実際に見て、触れて、体験することだと考えています。興味を持った場所には直接行ってみて、自分の“クセ”にとらわれない柔軟な視点を養ってほしいと思います。大事なのは、学ぶのではなく、五感を通じて感性を養うこと「建築」と「環境」の定義を問い直すための学科名称変更
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