入試ガイド2020|多摩美術大学
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メディア芸術 美術学部情報デザイン学科メディア芸術コース視覚表現互いに理解しあったふりをして、奥深く踏み込むことができない関係の同僚《評価コメント》街灯の光が作り出すシティスケープ。信号で立ち止まった先に見えるのは、どこかへの入口。横断歩道の手前から見える夜景をミニマルな要素で描く力に驚かされる。「奥深く踏み込む」ことを阻む赤信号が、ルールに従うだけで「理解したふり」をする、現代人の心の風景であることを暗示する。問題文の「同僚」という言葉から、現代社会の「孤独」を読み取る想像力を高く評価したい。想像上の生き物とされていた天狗のように飛び抜けた能力を持つ彼。心を許してくれた彼はその鼻を触れさせてくれた。すると、自身の意識に改革が起こり...《評価コメント》想像上の存在である天狗と触れ合う瞬間、それは未知との遭遇といえる。確かに同じ世界に存在していながら、私たちとは全く異なる文化や生態がそこにある。そうした異なるもの同士のコミュニケーションの瞬間、不安や驚き、そしてそこで起きようとしている変化を描こうとしている。そうした多層的な感情や変化を捉えようとする深い想像力が感じられる。東京で借りたアパートは古びていて、さびしくて、ひっそりとした空間だった。5年ほど経った頃、私は手を滑らせて鍋を床に落としてしまった。すると床下から溢れんばかりの虫が出てきた。私は1人ではなく、こんな数の虫たちと一緒の空間で時を過ごしていたのだ。《評価コメント》自宅でこんな「同僚」に出会ったら、悲鳴を上げそうなところだが、素直に感嘆してしまうのは、驚くべき描写力のせいである。「トロンプ・ルイユ」の技法を身に付けながら、ゲジゲジをまるで宝石のように見せてしまう、色彩センスも素晴らしい。時に自分を偽り、夢中になっていたことを心の奥深くに閉じ込めてしまう。そのドアを開ける鍵は自分の過去の写真だ。そこに写る眼差しを見ると、過去の不安や失敗を思い出し、靄がかかってしまう。けれど、それに向き合い、分離した過去と今のピントを合わせると、何を思い、何がしたいのかがクリアになる。そうして本当の自分に出会うのだ。《評価コメント》絵を夢中に描く、幼い頃の自身の写真。その時の記憶に向き合い、複雑な感情のうねりの中から、本当の自分(同僚)に出会うという内面の変化の過程を、ピントを合わせるという比喩で物語ったところに真摯な眼差しを感じた。079

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