入試ガイド2020|多摩美術大学
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芸術学 美術学部芸術学科鉛筆デッサン「言葉によるデッサンを含む」 細長くちぎられたトレーシングペーパーは、透明なガラスのコップの中から上空に向かって手を伸ばしたような体勢で制止している。コップの下にはもう一枚、ちぎられていないトレーシングペーパーが敷かれているが、画面右側で折り返され大きな影をつくっている。紙が自由に跳ねたり巻き上がっていくのに対してガラスのコップは重く、ちぎられた紙の軸を支えたり、下の紙の重しとして作用する。 紙がこのような体勢を保っていられるためには軽くなければならないが、かと言ってやわらかいわけではない。敷かれた紙はなめらかなのに対して、伸びた紙にはしわが入っている。 またコップとトレーシングペーパーには、光に対する反応の仕方に大きな違いがある。コップは光を強く反射するので、例えばコップの底の部分では強くコントラストが生じる。一方でトレーシングペーパーは光をやさしく吸う。そのため、しわのある部分にもそれほどコントラストが生じていない。加えて、コップの右側に覆いかぶさっている方のトレーシングペーパーの下には、うっすらと影ができている。トレーシングペーパーが透明ではなく、かと言って完全な不透明ではないために影はおだやかに生じる。そのことは、覆いのないコップの左側に敷かれたトレーシングペーパーの明るさと比較すれば分かる。 光は左側からが強く、光源が左上であることが推測できる。片方の端をキャンディの包み紙のようにねじられた紙の上に、ガラス製のコップが置いてある。さらにその中に、軽く折りたたまれた紙が入っている。これらの二枚の紙は複数枚重なっている部分がより白く見えることから、透ける素材であることがわかる。 コップは下にいくにつれてすぼまっていく形状のため、巻かれ、折られている中の紙はつかえており、これ以上落ちることはない。また、そのことから透けるほど薄いこれらのような紙でも、折りたたむことでいくらかの強度を持つことがわかる。コップの飲み口に紙が触れていることから、紙が元の形に戻ろうと反発していること、紙はしっかりと折られているわけではないことがわかる。また、触れる部分にはコップの反射光をともなう。コップから透けて見える紙はかなりゆがんでいて、特に左側は奥の空間が確認できるほどである。コップが落とす影には光が反射しているため、明るくなっている部分も確認できる。紙同士が重なっていない部分は淡く光を通すために、重なっている部分よりも床に落ちる影は弱くなっている。紙が一枚かつコップの反射光を受ける部分はかなり明るい。093

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