入試ガイド2021|多摩美術大学
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日本画油画版画彫刻工芸グラフィックプロダクトテキスタイル環境メディア芸術情報芸術統合演劇舞踊劇場美術写生とは、海鮮の生け捕りのようなものであると思う。読んで字の如く、「生」を「写」しとる。芸術における「生」の感覚とは、創り手の伝えたいことや感情などが最も鮮明に、新鮮に、受け取り手である鑑賞者に伝わることだと考える。このとき、作品が「生」の状態で人の心に入り込む。暴れ、浸透すると、その人の考えや倫理観、生き方にまで影響を及ぼす。これが、「生」の強みであり、多くの創り手はこの状態で自分の作品を鑑賞されるのを待ち望んでいるだろう。一般的に写生と聞くと、対象をどれだけ現実的に写しとることが出来るかが重要視されそうである。実際、今まで私が小学校、中学校で学んできた写生の授業では、どれだけ上手く、どれだけリアルに対象を描けるかということを基本に、陰影法や遠近法などを学んできた。しかし、私はそれらが本当の写生になりうるとは到底思えない。もちろん技法を学ぶことは創り手が「生」を創り出すことにおいて大切であり、重要であり、最も近道になりうるので、否定はしない。むしろ肯定する。問題であるのは、そこで教師が何かを描き加えてしまったり、消してしまったりすることである。それは、写生とは呼べない。口頭のみでの指導やアドバイスであるなら、創り手の心を一度経由してから作品に反映されるため、創り手の伝えたい音や感情などは損なわれることはない。よって、「生」はだれかに消されることなく、保護されるのである。写生とは、「生」をう■つ■す■ことだと先程も述べたが、では、〝「生」を「映」す〟でもいいのではないだろうか? 「映生」でも、芸術になりうるのではないだろうか?答えは、ノーである。写生とは、創り手の心の中や感じていることだけではなく、周りの環境、生い立ちなどが素直に写しだされていなければならない。そこに嘘や見栄は必要ない。しかし、写生に対して「映生」は、嘘や見栄が入り込んでしまう恐れがある。鑑賞者対自分対作品であればいいものを、自分を「映」えさせようと他人を入り込ませる「映生」には、素直さがない。これでは、「生」の感覚も現れることがないのである。写生は読んで字の如く、「生」を「写」しとることだ。まるで、海鮮の生け捕りのようだ。ここまでは創り手側の目線で話を進めてきた。対して、受け手である鑑賞者は、その生け捕りにされた新鮮な「生」が死なないうちに、たくさん頬張るのだ。自分の手と心のみで行う、本当の写生は、創り手にとっても、鑑賞者にとっても、おいしくなければならないのである。写生は画家が絵を描いていくために必要な過程の一つである。「ある物を自分なりに捉え、頭の中で解いていく」というのは芸術において大切な段階である。そしてある物を模倣する写生から自分なりに新しい解釈を作品として形にしていくのだ。写生は学ぶために行う手段である。写生は美術で例えるならばデッサンが当てはまる。絵を描いていくために必要な基礎となるデッサンは、対象物を見たままに描いていく。段階として、「陰影」、「形体」、「空間」がデッサンの中では特に重要とされる。この三つの項目について、これから述べる。                      まず、対象物の形を捉えて形にしていくためには、対象物を支える要素を読み解くことが重要である。そのため「陰影」はデッサンにおいて最も重視される。陰影表現において、理解しておかなければならないのは「シェード」と「シャドウ」の違いである。それぞれ「物体に光が当たった時にできるかげ」と「物体に光があたった時に地面に現れるかげ」という違いがある。それぞれの「陰」と「影」を描いていくことにより、対象物の質感や量感、シルエットが形となるのだ。次に「形体」について述べる。「形体」というのは、物の姿形のことである。この「形体」は写生において特に無視できない要素である。例えば、円柱形を描く際に長方形に簡略化する、いわゆるポリゴンにして描くことは形体を捉えるための一つの手段である。この形体を捉える手段は「面取り」といって、形を面として捉えて整えていくものである。最後に「空間」について述べる。「空間」すなわち奥行きは、対象物に「そこにある」という存在感や対象物の重量感を与える。これらは、前述した「陰影」と「形体」を描いていくことでつくられている。また、空間の表現方法として色の濃さで立体感が引き立ち、対象物を「存在するもの」として描くことができる。写生は「捉えたものを、自身の頭の中で解釈して形にする」行為である。この行為は美術においてデッサンに当てはまり、絵を描く者は必ず行ってきた。これを行い、その延長線上に現在でも讃えられる絵画の表現や技術があるのだ。「陰影」を追求し積極的に取り入れ、明暗をはっきりさせたことによってバロック絵画は好まれた。また、「形体」を意識して作品に取り込んだピカソやブラックによりキュビスムが誕生した。そしてキュビスムに感化されたモンドリアンが、「冷たい抽象」とも呼ばれる、『コンポジション』を生んだ。「空間」を平面で表現することによって奥行きが確立されてきたのだ。このように、物を捉えて形にするこの行為はほとんどの芸術作品に通じているのだ。写生は基礎となる行為であり、作品を制作することにおいて、こうした基礎を徹底することが大切であると私は考える。特別選抜A■■■・動く春画ふぇす・日本のアニメを支える新たなシステム「スキボタン」の企画書以上2点教員コメントまず冒頭で、写生という言葉を「生」を「写」しとることと読み換え、通常とは異なった意味を与えるところから論述を始めている点が高く評価できます。対象をリアルに描き出すよりも、創り手の想い、感情などを最も鮮明に伝えることが芸術における「生」の感覚なのだという結論は大変独創的です。教員コメント写生を「捉えたものを、自身の頭の中で解釈して形にする」行為と定義し、同じく絵画の基礎となるデッサンを構成する3要素「陰影」「形体」「空間」と重ね合わせて論じていく構想力が優れています。その原理を技法にまで高めた画家たちに言及している点も、美術への関心の深さを示し、評価できます。提出された課題と、課題に対する教員コメントを芸術学科ホームページに公開しています。[芸術学科ホームページ] http://www2.tamabi.ac.jp/geigaku/admission/koubo/            芸術《特別選抜A:学校推薦型選抜》提出課題タイトル小論文

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