入試問題集2023|多摩美術大学
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Departrama, D i,ment of Scenography DesandDancegn 撮影する場合があります。2. 課題についての事前質問にはお答えできません。 試験官が口頭で指示するものとする。② スピーチの出題では、自身の体験や想像を率直に他者に伝えることができるかを見ています。言語、呼吸、目線、姿勢、全身の使い方など意識的、無意識的な表現力を確認しています。③ 戯曲作品の台詞を発話してもらうことによって発声が安定しているか、空間を意識して声がしっかり出ているかを確認します。シーンを創作する出題では、表現の柔軟性と豊かさ、他者との共同作業を見ました。いずれにおいても、これまでの経験にとらわれず試験官や他者、空間から求められるものに柔軟に対応することが重要です。[2]エピホードフ 今ちょうど明け方の冷えで、零下三度の寒さですが、桜の花は満開ですよ。どうも感服しませんなあ、わが国の気候は。(ため息)どうもねえ。わが国の気候は、汐 [しお]どきにぴたりとは行きませんですな。ところでロパーヒンさん、事のついでに一言申し添えますが、じつは一昨日[いっさくじつ]、長靴を新調したところが、いや正真正銘のはなし、そいつがやけにギュウギュウ鳴りましてな、どうもこうもなりません。何を塗ったもんでしょうかな?やめてくれ。もうたくさんだ。演劇舞踊デザイン学科 演劇舞踊コースドゥニャーシャ登場、ロパーヒンにクワスを差出す。92[採点基準]・理解力= 身体に対する要求に対して実感を伴って理解できるか素直に言葉を受け取ることができるか・意欲性=身体に対する要求に積極的に取り組んでいけるか・独創性=身体を使っていかに意識的かつ独自的な表現ができるか・観察力=運動の持続の中で変化する身体を感じ取れるか・身体認識=表現以前に身体の細やかな感受性に注意を払うことができるか一般選抜 | 専門試験身体表現 [3時間][出題のねらい]① 基礎的な運動能力、柔軟性、瞬発力、バランス感覚、身体をコントロールする能力があるかどうかを見ます。また、表現の手前にある各自の身体への興味や実感について見ています。音楽に対しての感受性もポイントとなります。身体の動きの中から現れる美意識や、ダイナミズムを期待しています。そして自分自身の身体を取り巻く環境を新鮮に体験できる素質があるのかが評価の重要な点です。自己の身体で実践を試みる冒険への意欲を重要視します。経験の有無は問いません。先入観のない素直な身体の姿勢を期待します。2023年2月10日(金)実施問題 | 与えられた課題について、身体で表現しなさい。条件 | 課題は試験場において、 注意 | 1. 試験中に記録映像(写真など)を 一般入試 実技試験 身体表現 セリフ課題[1] うとうととして目がさめると女はいつのまにか、隣のじいさんと話を始めている。このじいさんはたしかに前の前の駅から乗ったいなか者である。発車まぎわに頓狂[とんきょう]な声を出して駆け込んで来て、いきなり肌[はだ]をぬいだと思ったら背中にお■[きゅう]のあとがいっぱいあったので、三四郎[さんしろう]の記憶に残っている。じいさんが汗をふいて、肌を入れて、女の隣に腰をかけたまでよく注意して見ていたくらいである。 女とは京都からの相乗りである。乗った時から三四郎の目についた。第一色が黒い。三四郎は九州から山陽線に移って、だんだん京大阪へ近づいて来るうちに、女の色が次第に白くなるのでいつのまにか故郷を遠のくような哀れを感じていた。それでこの女が車室にはいって来た時は、なんとなく異性の味方を得た心持ちがした。この女の色はじっさい九州色[きゅうしゅういろ]であった。 三輪田[みわた]のお光[みつ]さんと同じ色である。国を立つまぎわまでは、お光さんは、うるさい女であった。そばを離れるのが大いにありがたかった。けれども、こうしてみると、お光さんのようなのもけっして悪くはない。 ただ顔だちからいうと、この女のほうがよほど上等である。口に締まりがある。目がはっきりしている。額がお光さんのようにだだっ広くない。なんとなくいい心持ちにできあがっている。それで三四郎は五分に一度ぐらいは目を上げて女の方を見ていた。時々は女と自分の目がゆきあたることもあった。じいさんが女の隣へ腰をかけた時などは、もっとも注意して、できるだけ長いあいだ、女の様子を見ていた。その時女はにこりと笑って、さあおかけと言ってじいさんに席を譲っていた。それからしばらくして、三四郎は眠くなって寝てしまったのである。 その寝ているあいだに女とじいさんは懇意[こんい]になって話を始めたものとみえる。目をあけた三四郎は黙って二人[ふたり]の話を聞いていた。女はこんなことを言う。― 子供の玩具[おもちゃ]はやっぱり広島より京都のほうが安くっていいものがある。【夏目漱石『三四郎』より抜粋】ロパーヒン エピホードフ 毎日なにかしら、わたしには不仕合せが起るんです。しかし愚痴は言いません。馴[な]れっこになって、むしろ微笑を浮べているくらいですよ。エピホードフ どれ行くとするか。(椅子にぶつかって倒す)また、これだ。……(得意げな調子で)ね、いかがです、口幅[はば]ったいことを言うようですが、なんたる[めぐ]り合せでしょう、とにかくね。……こうなるともう、天晴[あっぱれ]と言いたいくらいですよ!(退場)ドゥニャーシャ じつはね、ロパーヒンさん、あのエピホードフがあたしに、結婚を申しこみましたの。ほほう!ロパーヒン 【アントン・チェーホフ 神西清訳『桜の園―喜劇四幕―』より抜粋】

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