芸術学科一般選抜総合型選抜学校推薦型選抜小論文 私の好きな芸術家は、ルイーズ・ブルジョワである。彼女は社会における女性像について悩みながらも考え、作品を制作している一面がある。私はブルジョワの静かでありながら、強烈な感情を表現した作品が好きである。例えば、《かまえる蜘蛛》という大きな彫刻作品を以前鑑賞した。それは、蜘蛛が体勢を低くし、今にもこちらに飛びかかりそうだった。そこには強い警戒心があり、当に幼い子を守る母のようだと感じた。彼女の作品には、女性が秘めている、子を守るためならどんな手段でも使ってしまうような暴力性があると思う。実際、彼女は三人の子供を産んだ母親でもある。世の中の母親達は彼女の作品を見て、どれ程の共感を感じるのだろうか。ルイーズ・ブルジョワは、静の中に強烈な女性の感情を込め、鑑賞者の心を揺さぶる芸術家なのである。私が好きな芸術家は、現代アーティストの渡辺篤だ。彼は、自身の引きこもりの経験をもとに、同じような状況にある人々へ向けた作品、プロジェクトを多数発表している。そのなかで、私が一番心を揺さぶられたのは、『私はフリーハグが嫌い』と題された作品だ。この作品は、インターネットで募集をし、応募した参加者のもとへ向かい、対話とハグをするものだ。ハグの様子は写真におさめ、最終的に美術館で展示される。名前も知らない他者の傷や痛みを想像させるようなこの作品は、私もなぜだか許されたような気持ちになる。芸術家とは、作品とは、このようなものではないかと私は考える。作品を介して、自分ではない誰かに想いを巡らせること。私は、渡辺篤の作品のような影響を与えるアーティストを目指している。81問題1 | あなたの好きな芸術家について、350字以内で自由に論じなさい。小論文[教員コメント]ルイーズ・ブルジョワという世界的な評価は非常に高いが、その作品の本質が、ややもすると「女性性」としてのみ語られる傾向がある作家の代表作に秘められている、「子を守る母」としての側面と、それとは対照的な「暴力性」の発露という側面を正面から受けとめ、その可能性にして不可能性を自分の言葉で表現できている点が見事である。[教員コメント]好きな芸術家についての選択が個性的で、しかも具体的である。さらに、その芸術家が実現を目指している両義的な表現が目指すところ、その方法について、わずかな言葉を用いてきわめて的確に描き出している。その結果として生み出された作品についても「傷や痛み」とともに「許し」が両立している様を見出す点など、批評としても優れている。
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