tonATELIER_Vol.01
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僕が今、分かっていることだけやっていても、それは既に過去の価値観。分からないことを盛り込む。いつか振り返って「あれは芸術だったんだ」と言われること。それで良いと思う。僕は、茨城県・水戸の出身で、小さい頃からずうっとサッカー少年でした。高校生の時も、もちろんバリバリのサッカー少年。高校3年生の時、トーナメントで絶対に負けるわけがないと思っていたチームに負けてしまい、それが急に引退試合になってしまったんです。頭の中は真っ白。もう、朝練も夕練もない。何もすることがない。「どうしよう」っていう感じです。その時、すごく集中して考えました。自分のこれからを。考えて、考えて、そして「あ、そういえば自分は絵が得意だった」っていう思いが胸を突き刺したんです。それで、近くにあった美術の予備校に行って、いきなり「ちょっと入れてください」って。そうしたらそこの先生がひとこと、「ダメ」。その時の僕は、サッカーをやっていたから肌は真っ黒、髪も長くて。きっと不真面目な高校生に見えたんでしょう。「多分、キミには続かない」って言われてしまいました。でも、僕にだって意地があります。次の日も予備校に行きました。「美術、やらせてください」ってね。先生に熱意が伝わったんでしょうか。「じゃあ、やってみるか」ということになって、そこから芸術と向き合う人生がスタートしたんです。『六本木クロッシング2010展』2010年3月20日−7月4日森美術館六本木ヒルズ森タワー53階美大では、僕の頃は2年生前半まで課題があって、それは真面目にやりました。でも、2年生後半からは僕の中で変化があって。絵を描くということから距離を置くようになりました。インスタレーションに興味を持ち始めたんです。そもそもインスタレーションって “配置”という意味があるんですが、囲った空間そのものを作品として展示してみたらどうだろうという思いが広がってきたんです。絵の場合、本来は頭の中にある物事をある種変換させ、画面に定着するわけですが、頭の中にある空間を頭からひっぱり出して描くより、頭の中にある空間をそのまま立体として表現してみたら面白いんじゃないかと。今ではさらにその空間の中で身体を使って表現するので、よく「パフォーマンス」と言って紹介されますが、自分ではシンプルに「身体行為」という言葉で表現しています。絵画から立体へ変わった頃の最初の評価はひどいものでしたね。誰もやったことのない、最新のことをやるというのは、人に伝えにくいものだと思んですよ。理解を得ること自体が難しいんです。でも、自分が正しいって思ってやるしかない。なんて、今でこそ偉そうな《森美術館》六本木ヒルズ森タワー上層階に位置する森アーツセンターの核となる美術館。現代性と国際性を最も重要な理念とし、先端的アートを率先して紹介。絵画や彫刻、写真、建築、ファッション、デザインなど多ジャンルにわたる企画展を行っている。「身体行為」という普遍性の中に、独自の表現方法で未知なる芸術世界を追求し続けるアーティスト・雨宮庸介。彼が発信する作品には、人の未来を変える何かがあるのかもしれない。Graduates' message vol.1雨宮庸介

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