tonATELIER_Vol.02
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 砕けたブロックが散乱する床と電気のコードが垂れ下がる天井に数本の柱。コンクリートを剝き出しにした壁面が囲む空間が、最初はたった1枚のスケッチを起点として、やがて落ち着いた雰囲気のカフェや煌きらルホールへと変貌をとげていく。 「空間のデザインは、完成形が最後まで見えない。空間は商品が入ってオープンしてお客さんが入ってやっと完成。いくらスケッチを描いてもCGをやっても、そこまでは見えない。だから面白くて楽しいけれど、同時にそれが恐さですね」 乃村工藝社に吉村峰人が入社したのは4年前のことだ。ブライダル施設のリニューアルなど数多くの案件を任された。斬新なデザインは、実はコンセプチュアルな考え方に裏づけされている。地域性やマーケティングの重要性を理解し、クライアントの意見に耳を傾け、それでいて自分ならではのコンセプトを導いていく。 「なぜデザインが必要かということを考えると、現状に問題があるから。デザインは問題解決のためのものだと思います」と、しながらもその一方で、びやかなブライダ「それぞれの考え方がある。デザイナーはアーティストではないと断言する人もいれば、アートを忘れてはいけないという人もいる。感覚で発想する人や、論理的に構築する人もいて、それぞれの考え方がある。経験や年齢によって変わることもあるし、案件によっても違ってくる。これが正解というのはない。いろんな考え方やデザインの手法をしゃべったり聞いたりできるインハウスデザイナー(企業内デザイナー)という環境が僕には良かったと思います」 彼は論理性のなかに柔軟な思考を合わせ持っている。思考の柔軟さは旺盛な好奇心の表れでもある。彼が乃村工藝社を選んだ理由についてこんなエピソードがある。 「鈴木恵千代という乃村工藝社のデザイナーが多摩美に講師で来ていて、実は僕は鈴木さんが何者なのかまったく知らなかったんです。で、あるとき飲みに行こうと声をかけていただいて、そのときに鈴木さんが仕事の苦労話をされたんです。いや失敗談ですかね。とにかくそれがすごく楽しそうに聞こえたんです。面白そうだなぁって」 脳裏に乃村工藝社の名前がインプッひとり閉じこもったとしても、窓はいつも開けっ放しの、風が通って、いつでも話せる人がいるところ。

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