tonATELIER_Vol.02
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なったのです。最初は身近にあったモチーフを、そして段々と核になる気持ちのようなものを表現するようになっていきました」 「核のようなもの。色はわからないけれど丸くてすべすべした何かが、描いている流れのなかにある」と彼女は言う。その丸いすべすべした何かが、登山における道標のように、あっちこっちに導くのだという。彼女は、作品に関するメモやスケッチといった記録をあまり残したくないそうで、作品だけが残ってくれればいい、と考えるようになったという。 「わたしの、これまでに起こったマイナスの掛け算。人間の心は案外壊れやすいという現実を目の当たりにした際にも、それを冷静に観察している自分がいる」果てとか終点、何かがそこで断ち切られていたりする場所が好きで、そういったところへしばしば旅します。あるいは寒い国。風の音すらしないような原野をフラフラと目的もなくただ歩くだけ。そのときに五感で感じたことは、少なからず自分の作風に影響を与えていると思います。 「わたしは自分の作品を日本画と言ったことは一度もないし、絵画なのかイラストなのかを考えたことすらありません。日本画の素材、水を使っての作品制作が性に合っていたので、描いていただけなんです」 現在の作風、一目でそれとわかる独特の町田久美作品はいつどのようにして生まれたのだろうか。 「鉛筆で描いたら鉛筆の線に。筆だから筆線に。それだけなんです。一時、描くこと自体が目的になってしまっていた時期がありました。描きたい何かはあるのに、そのアウトプットの仕方がわからずもどかしい。それがあるとき、うまく言えませんが、自分以外の何かが作用したのか、ふと線で描いてみたく 彼女は自分自身を「いい人じゃない」と言い、しばしば「わたしのなかの黒いもの」と表現する。作品の特徴でもある“墨の線”に対しては、「手綱の意味があるのかも」と言った。“墨の線”は、暴走しようとする本能をコントロールする手綱だという。弱く細い線を幾度も重ねた“墨の線”は、心に宿ったいくInstallation view at kestnergesellschaft, Hanover March, 2008  写真:Raimund Zakowski 『ことほぎ』 2008 雲肌麻紙に青墨、顔料、岩絵具、鉛筆 116.1×145.5cm『対処法』 2005 雲肌麻紙に青墨、茶墨、顔料、岩絵具、鉛筆 53×45.5cm影響を受けたモノ・コト「端っこが好きなんです」 自分の思っている自分なんてしょせん妄想あるいは希望。 そんなことすら意識しないところ。

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