tonATELIER_Vol.03
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30待ち合わせたのは、絵の具とオイルの匂いでいっぱいの油画のアトリエ。松本さんの卒業制作の作品を前にして、軽い会釈を交わし、まずは“先輩”の西さんがいった。松本玲子さんは絵画学科の油画を専攻し、西翼さんは芸術学科を専攻していた。それぞれの4年間を過ごした二人は、この日初めて会話したのだが、偶然なことに、同じ高校の先輩と後輩だった。大学院に進んだ二人はどんな2年間を送ろうとしているのだろうか。同じ高校、同じ多摩美、なのに初対面!?西:同じ高校ですね。僕はずいぶん寄り道してから大学に入ったので、知らないですよね。はじめまして、西です。松:実をいうと私は知っていました。中高一貫の学校だったから、私が中学生のころ高校生の西さんが、民族舞踊の部活で目立っていたので知っていました。だから、学部生のときキャンパスで、あれっ?もしかしてと思ったのを覚えています。西:ええっ?!あれ見てたの、恥ずかしいなァ。そうかキャンパスで何度かすれ違っていたんだ。松:でも、ほとんど会うことはなかったような。西:芸術学科の学生は、授業以外はほとんどキャンパスのなかにいませんからね。たとえばインターカレッジの雑誌を発行する組織に所属したり、3年生からゼミの授業の一環で展覧会を設計したりするので、施設の関係者、スタッフ、作家さんとの交渉やミーティング、それにテキストを作ったりしなきゃいけない。積極的にやる人ほど、キャンパスの外での活動が多くなるんです。せっかく美大なんだから本当はもっと内側というかキャンパス内にも活動の拠点を置きたかったんですけどね。フィジカルな制作と観念的な芸術学科。松:西さんたちのように私はあまり外に意識が向いていなかったかもしれませんね。制作者は作ること、それを考えることで4年が過ぎてしまう。自分は何を描くのか、何を自分の作品というのか、それを考えて、それだけの4年間。受験はモチーフを与えられるから、見た目だけの自分らしさでいいみたいなところがあるけど、入学したら全くのゼロからやり直すという感じです。西:大学に入ったらアーチストになっちゃうんですよね。松:自分らしさって何?みたいな。そこから考え始めて、さらに表現方法も自分で選ばなきゃいけない。作って、考えて、また作って、また考えて、その繰り返し。私なんか、入学してから学部での4年間は、自分に正直に描きたいと思っていても、考えたことと作ること、それと作品とがうまくつながらなくて。既存の作風がイメージとして脳裏に浮かんで、それを描いてしまうのですけど、やっぱり何かが違うんです。もっと自分が実感したことをストレートに作品にするにはどうしたらいいのだろ西 翼さん大学院美術研究科芸術学専攻 1年うと、試行錯誤していましたね。西:そのころもモチーフは風景だったんですか。松:最初は人物、というより自画像ですね。目を閉じて自分の顔を触りながら、指に伝わる感触だけを頼りに、そのころは自画像ばかり描いていました。だから学部での4年間というのは基本的に外に向かって活動するというのはそう多くはなかったです。制作の内側というか、ものをつくること自体について考えていました。西:制作者は、平面と向き合って、絵の具があって、やっぱり具体的なところで考える。それはとてもフィジカルですよ。ところが芸術学科は極端にいうと言葉だけ。観念的でちっともフィジカルじゃないから、空回りする可能性が大きいし、実際そういうケースは多いと思います。刺激的な授業もあって、いっぱい情報を取り入れていると、まるで自分に全知全能松本 玲子さん大学院美術研究科絵画専攻油画研究領域 1年Students' talk作って、考えて4年間、自分を試す2年間。

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