tonATELIER_Vol.04
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プロと学生の違いは、組織で働く意識 「漠然とですけど美大にいきたいと考えるようになったのは高校に入った頃からですね。母が着物の先生をしていた影響もあったと思いますが、ファッションデザインの世界にあこがれていたんです。それで美術予備校に通い始めました。多摩美はテキスタイルデザインを学べる科があったので受験しました。テキスタイルは素材から遊べますし」 國生克彦は、品質の高いファブリックを専門とする㈱スミノエのチーフデザイナーだ。多摩美の染織デザイン専攻(現テキスタイルデザイン専攻)を卒業してすぐに入社した。 学生だった頃にジャパンテックスというテキスタイルの見本市イベント会場に行った際、その会場に出展していた会社のブースに偶然出会い、いろんなファブリックを展開していて面白そうだと思ったのだという。 國生がこれまでデザインを手がけてきたものはブランド店や一流ホテルに敷かれるカーペット、オフィスの床材として使用される50cm角のタイルカージーなものです。だから金属やコンクリートなどから作る工業製品と違って1ミリ単位の要求に応えることは難しく、厳密にいうと天然素材には同じ色もない。そういう理解をいただくのも大変です」 國生がホテルの仕事の話をするときは、優しげな眼差しに真剣さが伴い、軽やかで愛想の良かった口ぶりは急に慎重になってくる。 「ホテルなどの仕事は、他にないオリジナルのものになるということに加えて、ほとんどすべてが数社によるコンペティションなんです。戦いというと大げさですが、コンペは競うことですからやはり勝敗という結果がつきます。だから勝つデザインをしなければならないんです。そのためにはまずお客様を知ることですよね。営業部門は僕らでは知りえない情報を持っていることがあるし、感覚も違う。だからこそ緊密な連携が必要だし細かな情報がデザインの勝敗に大きく影響することになるんです。お客様の役に立つデザインが結局必要とされるものなのです。学生の頃はこんなこと考えたこともなかった。学生と社会人の一番の違いは、きっと組織で働く意識だと思います」ペット、緞帳や段通など多岐にわたる。が、これまで一番多くの時間を費やしてきたのは、ホテルのロビーや宴会場用に敷かれるオーダーカーペットのデザインだ。 「ホテルにはそれぞれの特徴がありますし、規模も、地域性や立地条件も一つひとつ異なります。当然、ご利用になられるお客様の目的も違いますしカーペットを歩く人の数も変わりますよね。その地域に暮す人の好みだって違います。たとえば関東では江戸文化の名残りなのか渋い色合いなのに凝ったものが好まれる傾向がありますけど、名古屋や関西は真逆で、派手な色調や柄じゃないと受け入れられない。そうなるとカーペットのもつ役割は変わってきますよね。高級感とか物理的な耐久性の優先順位も違ってきます。そうした条件を考えてからコンセプトを立てて色や形のデザインと、どんな糸を使ってどんな織りにするかをプランニングしていきます。もちろん会社には営業部門がありますからそちらの担当者と常にコンセンサスをとりながら進めなければなりません。 僕たちの商品である繊維はとてもファ「次々に熱狂して、自分なりの答えを」

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