tonATELIER_Vol.04
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いつも世界で誰かが使ってくれている 加藤強は、日産自動車のプロダクトデザイナーだ。クルマのデザインには、外観であるエクステリアやカラーリングなどもあるが、彼は入社以来ずっとインテリアのデザインをしている。 「すでに発表されたものしかお見せできないのですが…」と前置きをしてから自身がデザインを担当したモノを見せてくれた。企業のモノづくりは何年も先に発売する、いわば製品づくりだ。だから技術もカタチも秘密裏に進行させなくてはいけない。プロダクトのデザインはそれ自体が重要な機密事項なのだ。加藤が見せてくれたのは、2008年に6年ぶりのフルモデルチェンジをしたことで話題となったフェアレディZのシフトノブだった。 「入社1年目くらいのときにやってみろ、といわれてやったんです。クルマのインテリアって、もちろん全体のコンセプトにそってデザインするのですけど、日本の法律による規制もあるし、世界中で売られるものなので安全とかエコへの配慮とか時代の先端をゆくグローバルな視点とか細かな条件が、ひとつひとつのパーツのデザインにも加味されるんです。ある程度の方向性が決まって作業が進んでいても、途中で設計の変更が出たり、あるいは生産工程で無理が生じたりすると、その都度デザインはやり直しです。このシフトノブのデザインが決まるまでに数百のスケッチを描いたと思います」 ひとつの製品が発表されるまでには、多くの専門分野のスタッフがかかわる。開発の方針があって、基本設計があって、デザインコンセプトが導かれる。たっればいけない。 「これは、モーターショーに出展したコンセプトカーですけど、このインテリアは僕のデザインなので自分のテイストが濃いかもしれないけど、決して好き勝手じゃないです」 パリのモーターショーに飾られた「Townpod(タウンポッド)」と名づけられた日産のコンセプトカーで、コンパクトタイプのEV車だ。柔らかなレモンイエローで統一されたインパネ(計器盤)周りは緩やかな曲線で構成され、近未来的でありながら優しい印象を与えてくれる。このインテリアデザインの全部を彼が手がけた。 「クルマは世界中で売られるものなので、アジアの人、欧米の人、アフリカや南米の人、世界中のいろんな人が触れます。小さな手もあれば太い指の人もいますよね。パネルのスイッチひとつとっても様々な条件を考えてデザインされています」 それはデザインに対する気づかいだという。 「日本の製品の特徴は、気づかいだと思うんです。それはデザインだけじゃなく設計や生産工程の全てのセクションでいえることなんですけど、その根底に“おもてなし”の心みたいなものがあって、そういう細やかなセンスは日本人にしかない特徴だと思うんです。それが日本製品は優秀、という評価に繋がっていると。たかがシフトノブひとつかもしれないけど、世界のどこかで僕のデザインしたシフトノブを握って快適な運転を楽しんでくれていると思うと、それはモチベーションになりますね」 優れたプロダクトデザインは、様々な要求に応えようとする気づかいと自身のクリエイティビティとの相乗効果によって生み出されるのかもしれない。たひとつのパーツもそうしたプロジェクト全体の“流れ”にそったデザインでなけ05「先の心配をせずに、 今を頑張る。」

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