tonATELIER_Vol.04
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 加藤は、現在のプロダクトデザイナーにすんなりとなれたわけではなかった。 「実は僕、敗者復活というか大学も就職も二度チャレンジしているんです。別の大学を卒業して、多摩美には3年生から編入したんです」 彼は子供の頃からクルマ好きで、漠然とだがクルマのデザイナーになれたらいいなと思って進学を考え立体デザインの勉強をしたという。そして3年生のときに就職活動をはじめ、受けたのが日産だった。このとき自分の実力のなさを痛感したのだという。この経験が大きな転機となった。「もちろん最初の就職試験は落ちました。そのときにすごく堂々とプレゼンしてる人がいて『これは、かなわない』と思い知らされたんですけど、その人は多摩美の学生だったんです」 この最初の就活の失敗で、より実践的な勉強が必要だと痛感した。そこで知ったのが、3年次編入制度だった。そこで彼は両親に「あと2年間多摩美でやりたい」と頼み込んだのだという。 「授業は、もう別次元でした。だって多摩美の先生は、それぞれ自分の事務所を持っている現役バリバリのプロですから、それだけでレベルが違います。設備も充実していましたしね。僕は3年生からの編入ですから、周りはすでに訓練を積んでいる人だらけ。でも、不安はなかったですね。それよりもようやく自分の求めていた環境に出会ったというワクワク感でいっぱいでした。たぶん一度就活をして社会を見たのが大きかったと思います。だからハードだったけど、楽しかったですね」 彼が多摩美の授業で一番印象的だったのは、授業がプレゼン形式になっていたことだという。当然そのためには、事前の入念なブレーンストーミングと、何度となくデザインを練り直す作業が必要となる。自分のアイデア、自分のデザインを相手に訴えることは、社会に出れば日常のことだ。彼は事前の準備に裏打ちされたプレゼン力を磨いていった。 「先生方がとり囲むように集まってきて、その前でプレゼンするんですけど、怖かったし、メチャメチャ緊張しましたよ。それに先生方が意見がそれぞれ違ったりす06『Townpod 』 インテリア全体を担当写真提供 日産自動車株式会社るんです。僕は同じようにやっていても、先生はいろんな人がいて違ったことをいうんです。そんなこと初めてでした。でもこれは面白かったですね、実際、ハートが鍛えられましたし。2年後に日産をもう一度受けたときには堂々とプレゼンできたと思います。」 これから美大を受験しようという人や、プロダクトデザインに進みたいという人に何かアドバイスできるとしたら、 「あれこれ心配しないことだと思います。やりたいことはやってみる。ダメなものはダメだし、それだってやってみなけりゃわからない。心配するよりも、そのときを一生懸命に頑張ることですよ。僕も、多摩美でもそうだったし、今の職場でも同じだと思います。そのときの一生懸命の積み重ね。本人はいつも同じようにやっていても、自分の出来ることって、積み重ねのなかでいつのまにか増えているんです。それといろんなことに気づくことです。自分のことだけじゃなく周りのことも含めて、何がダメで何『フェアレディZクーペ』 シフト、センタークラスターほかを担当写真提供 日産自動車株式会社敗者復活、リベンジは楽しい気づきは気づかいに繋がっている「程よく緊張して自分を試す場所。」

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