メッセージ

理事長メッセージ

学校法人多摩美術大学 理事長 青柳 正規 AOYAGI Masanori

学校法人多摩美術大学 理事長

青柳 正規

AOYAGI Masanori

健全な社会が長続きするためには、社会全体は無理としても社会のなかに清新な部分がつねにあり続けると同時に、新たな刺激要素をとりこむ柔軟性を社会が備えていなければならない。また、社会の中に沈殿されていく澱をためないことも必要条件であるが、だからといって古い「コト」や「モノ」をないがしろにしていいというわけではない。むしろ現在が過去に比べていかに変化を遂げてきたのか、現在という時空を人類の時空の中にいかに同定するかを明らかにする指標として尊重することが重要である。

清新さを持続するために、これまでもそしてこれからも大きな役割を担うのが藝術で、とくにファイン・アートは、新しい世界像を具体的に表現したり、精神世界の願いや思いを形に表したりして人々を瞠目させ感動させてきた。また、現実の世界に隠されている情念や個々人の中にため込まれた魂の叫びを露わにしてきた。ファイン・アートはこれからもこのような役割を担いつづけるだけでなく、その役割に社会も大きな期待を寄せている。常識を否定することによって新たな時代を予告し、大きな感性の発露によって縮こまりがちな一人一人の感性を解放してくれるからである。ファイン・アートは人類の可能性を拡大すると同時に人類の尊厳をより一層大きくしてくれる牽引車なのである。

そしてデザインは、私たちの生活空間の中で気づかなかった、あるいは忘れていた優しさ、新しさ、心地よさ、使いよさ、そしてときには違和感を納得させてくれるだけでなく、生きることの楽しみや価値を認識させ、生きることへの希望と勇気を与えてくれる。道具によって人類は発展し、デザインによってより人類は人間らしい成長と充実を遂げていく。その意味でデザインは乾いた身体のすみずみに浸透していく真水のようなものといえる。絆や思いやりが希薄になり、感性と理性をないがしろにする乾燥化しつつある社会に潤いをもたらすのであるから、新しい社会を構築する基本的な役割を担うことになるばかりか、デザインが蓄積してきた探求の方法や生成の過程そのものが新たな社会構築に貢献していくことになる。

清新で調和のとれた社会の持続にとってファイン・アートとデザインはこれまで以上にその役割を期待されているだけでなく、ファイン・アートとデザインが尊重され活躍できる社会の実現に貢献したいと多摩美術大学は考える。そのためにもファイン・アートとデザインがシームレスな領域になることを追い求め、来たるべきシームレスな社会に対応できるよう努力する。

学長メッセージ

多摩美術大学 学長 建畠 晢 TATEHATA Akira

多摩美術大学 学長

建畠 晢

TATEHATA Akira

新たなる挑戦

いま世界にはグローバリズムの潮流が押し寄せてきていますが、その一方では民族的、宗教的な不寛容な思想が渦巻いてもいます。また私たちの生活を取り巻く情報環境は大きく変容しつつあり、AI(人工知能)などの新たな技術が一気に台頭してきてもいます。芸術の領域もそうした激動する時代状況と無縁ではありえないでしょう。多摩美術大学は80有余年の歴史を通じて、常に芸術の先端的な動向を切り開いてきたと自負していますが、変化の度合いを速める昨今の社会を前にして、挑戦者としてのさらなる意欲をもって本学ならではの使命を果たして行こうと決意を新たにしているところです。

一昔前までは大学は象牙の塔といわれていました。現実の社会から切り離された場所で、何の役にも立たない学問のための学問、芸術のための芸術にいそしむ機関だと揶揄されていたのです。しかし私は必ずしも象牙の塔が果たしてきた役割を否定しようとは思いません。大学が社会に対して積極的な使命を果たすこととは、何も時流に身を添わせたり支配的な体制に迎合することを意味しているわけではないのです。そこには時に批評的な眼差しをもって状況を捉え、また時代を越えて維持しなければならない価値を見極める自立した精神が息づいていなければなりません。

もう一つ重要なことは、変化するばかりではなく文化的な多様性をも増大させつつある社会に対して柔軟に向き合い、さまざまな課題を解決しうる視野の広さを持つことです。本学が専門学科の枠を超えたPBL(Project Based Learning)教育に取り組んでいるのも、どのような状況にも適切に対応しうる応用力の育成をはかろうとしているからなのです。

多摩美術大学は見方次第ではアートの道を目ざす者たちが集う親密なるコミュニティといえるかもしれません。創立以来本学が掲げてきた〈自由と意力〉というモットーは、志を共有する若者たちを鼓舞し、創作や研究活動への積極的な取り組みを誘い、また社会に羽ばたいてからの活動の支えともなることでしょう。私たちは目を輝かせて本学への入学を目ざしている“未来の同志”の皆さんの情熱に大いに期待しています。