不立文字

倉田 健杜

作者によるコメント

文字そのものが美しく輝くことは、誰の本心や本質とも関係のないことかもしれない。形にした途端に元来の意味や想いと変質してしまうのなら、本当のことは一体どこへ行ってしまうのだろう。外界にあるものはすべてそういうものなのかもしれないけれど、それらでできているこの世界は美しい。その中を生きる私たちにとってそれは救いだと思う。その余白を大切に思う。

担当教員によるコメント

長い時間をかけて練り上げた言葉を、既存書体を利用してアクリル板に彫りつけただけの本作は、言葉を実空間に存在させたいという思い・願いから生まれました。最終的に手わざの痕跡を残さない作品としたこと。実空間に設置されることで完成すること。作品の中心に言葉があること─。視覚伝達を目指して行われるグラフィックデザインは、常になんらかの影響を他者に与えます。倉田さんが作品制作を通じて考えたことはまさにそのことだったのではないか。言うまでもなく、学校は成長する場としてありますが、どのように成長するのかは当人の選択によります。この作品を特徴づけるすべてに、倉田さんの取り組みの独自性と美意識、そして現実にあがき、成長をつづける人特有の熱量を感じます。

准教授・佐賀 一郎