Unmade

孔 珊珊

作者によるコメント

私は、自分の気分の変化から生じる、実物のイメージに対する困惑を描きたいと考えています。そのため、曖昧なイメージが絵の主役になることが多いです。対象物の物理的特徴を表現するために明度の低い色絵の中で、対象物の客観的な外見的特徴を保持しながら、私は主観的に外見的輪郭を変形させたり膨らませたりして、不明確だが現実的な状態を表現しています。

担当教員によるコメント

漆黒の空間に白く浮かび上がる朧げな樹影。枝葉の先に微かな風を孕みながら、音もなく闇の中で揺れている。海の底に沈んで行くような静謐な画面からは、葉擦れの音さえ聞くことができない。全てを吸い込む沈黙の中で、観る者は闇に差す微妙な色彩の変化に気づくことになる。画面上方縁をかすめるように、淡い茜の色調が遥か彼方を染めている。画面中ほど漂う大気を暗示するかのように、青味がかった紫の帯が緩く静かに浮かび上がる。画面下方、手前の地形に絡まるように、緑のベールが大地を覆う。寡黙な作品は実は思慮深く、一見しただけでは気付かない色遣いと細やかな筆の運びを通し、作者の深い思考の過程と出逢うことになる。入学当初、群を抜く描写力で幾つもの秀作を描いたコウ・サンサンが、ここに来て自ら殻を打ち壊し、新たな表現に挑もうとしている。最大限の賛辞を贈りたい。

教授・武田 州左