僕はもう一度この声を聞きたい

齋藤 ひいな

作者によるコメント

 「僕は、広い空と、遠くの山たちが見える街に生まれ育ちました。そこには幾つもの大きな鉄塔がのびのびと建てられていて、その街の遥か向こうの空気まで教えてくれました。その心地よい開放感を遮るように頭の中に浮かんでくるのは、重力に逆らえない彼女の体と、その奥で絶え間なく行われる循環です。」
 
 この作品の中で、私は誰かを演じていました。その行為は、私が生きているかぎり完全には理解し得ない存在に対しての愛情表現であるかもしれません。そして、他者と共に現実世界を豊かに生き、より自身と向き合っていくための方法の一つでもあります。

担当教員によるコメント

 刈り取られたあとの田んぼの畔みち。送電線で繋がれた鉄塔が規則正しく遠景の中に消えて行く。誰もが記憶の何処かで想い出す、見覚えのある映像。画面下部に描かれた郊外の風景は、どこまでも穏やかで心地良い。その上空を埋め尽くすように、大きな塊が浮遊している。平凡な日常に、突如現れた得体の知れない大きな塊。作者はこの形態に、日々揺れ動く感情のほとばしりを重ねて描こうとしている。例えば心の奥深くに芽生えた情愛のかけら。若さ故に叶わぬ先で、時に激しく燃え上がることもあるだろう。その様子をあらわす様に、大きな塊は微細な細胞が幾重にも増殖し、分裂を繰り返しているようにも見える。尽きることの無い若き日の悩み。容易に掴めないこころの奥底を冷静に見つめ、振り絞るように形に託した齋藤の力量を讃えたい。青春の記念碑とも呼べる秀作である。

教授・武田 州左

  • 作品名
    僕はもう一度この声を聞きたい
  • 作家名
    齋藤 ひいな
  • 素材・技法
    岩絵具、水干絵具、胡粉、色鉛筆、墨、コンテ、鉛筆、高知麻紙
  • サイズ
    1927×3560mm
  • 学科・専攻・コース
  • 担当教員