赭紅獅

臼井 玲央

作者によるコメント

ふと形が歪んで見えることがある。目玉を通して視えたモノを、もう一度、再構成してみる。
 二次元に走らせる線はとても自由で、対象の輪郭は飛び、曲がり、モノ単体の文脈を超えてくれる気がした。
 三次元に建てる線は不自由だが、立体的な繋がりによって平面からは予測し得ない別の形が立ち上がる。
 彫り上げるイメージを軸に平面と立体を往来し、ある種の偶然性も取り込みながら、無理やり形を収束させる。決してゴールは設定しないように。
 そうするといつも、自分の手から離れ、一人歩きするような彫刻が生まれてくれる感じがする。
赭紅獅はそんな、私だ。

担当教員によるコメント

作者は一貫して、木彫で人と動物などが合体した像を制作してきた。毎度、それぞれが強くデフォルメ・逸脱・融合し、構造はとても奇妙で、何故か存在感をはっきりと後に残す。デフォルメにはそれぞれ意味があり、作者の個人的な願望や感覚が造形に表象されているそうだ。この不思議な構成が、制作前に描かれるドローイングの段階でかなり正確に現れていることに驚く。彼は正面と片方の側面しか絵を描かないらしい。つまり、制作前に綿密に決定された2面に対して、描かれなかったまっさらな残りの面がその像が「立体として成立するための余白」として残されているのである。その謎を解くために彼は黙々と木を彫る。まるで数式を解く様なエピソードだなと思うが、作者が像に対してどのように情熱を注いでいるのかがわかる。なんでこんな見たことのない魅力的な形になるのだろう?またいつか、臼井くんの新しい作品が見たい。

准教授・中谷 ミチコ